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〈仕事紹介〉起業家同士の生きたコミュニティの場をつくる。『宇都宮ベンチャーズ』の活動が目指すもの

皆さんの理想の働き方は何ですか?会社員やフリーランスなど、働き方には様々な形がありますが、中には将来的に起業したいと考えている方もいるのではないでしょうか。

「何かを始めたいけれど、誰に相談すればいいのかわからない」

そんな悩みを抱えたとき、チャレンジしたい人を支援する団体が栃木県宇都宮市にあります。

その名も、『宇都宮ベンチャーズ』。宇都宮ベンチャーズとは、宇都宮を拠点に起業しようと考えている人々をサポートする団体です。交流サロンやセミナーなどが開催されており、起業に興味のある方であればどなたでも利用することが可能です。

今回お話を伺ったのは…

株式会社エンターテインの代表取締役であり、宇都宮を牽引する起業家を育成する宇都宮ベンチャーズの運営を行っている常川 朋之(つねかわともゆき)さんです。今回の取材では、ご自身の豊富な企業支援のご経験を基に、現在、そしてこれからの宇都宮についてとことん語っていただきました。

株式会社エンターテイン代表取締役 常川朋之(つねかわともゆき)
2001年に商工会議所へ入所し、企業支援や総務職を経験。2015年に伝統工芸を活用した事業で起業。
2016年にアクセラレーターへ参画。特に地方行政が主催するプログラムを企画・運営し、東京都内・仙台市・愛知県・大阪府の起業家支援プロジェクトなどでメンターを担当し、地域のスタートアップ等を支援。2019年4月に改めて法人を設立、2020年度から大手企業の新規事業創出に関わるプロジェクトをハンズオン支援。自らも起業家としてコーヒー事業を展開している。

アイデアは4~6割固まった段階で相談へ

普段はどのような方が宇都宮ベンチャーズを利用しているんですか?

やりたいことが決まっている方が8割程度で、とりあえず相談に来たという方は1~2割と意外に少ない印象です。本格的に起業することを考えて訪れる方が多いですね。

相談内容としては、ネイルサロンやカフェ、パン屋さんなど、既存のビジネスモデルで地元に根付いた地域密着型の事業を考えている方が多いです

「漠然と起業を考えている」という方でも相談できるのでしょうか?

もちろんです!具体的な事業アイデアがない方はもちろん、事業計画書を持ってこられる方でも、幅広く対応できる相談窓口になっています。相談員もいろいろな経歴をお持ちの方がおり、実際に起業した人の話を聞くこともできます。正解は一つじゃないし、アイデアは人それぞれなので、幅広く対応しています。

地方のビジネスコンテストでは似たようなアイデアを目にすることもあるのですが、きちんと掘り下げると結構違うものなんですよね。だから、「全く同じアイデアはない」と思っています。そこを見極めてあげて、「なるほど、そう考えられているのですね。ひょっとしたらあなたにはこの方法がいいのかもしれませんね」といった選択肢を広げるようなアドバイスをしてあげて、最終的には自分で考えて決められるよう心がけています。

幅広い方から相談を受け付けているのですね。では、アイデア自体は何割程度固まった段階で相談するのがいいのでしょうか?

アイデアって、10割固まっていたら遅いんですよね。大体の方は、完璧にしてから人に話そうとするのですが、そうしている間に他人が実践してしまうこともあります。人に話すことではじめてアイデアは整理されますし、人の意見を聞かないとアイデアの良し悪しは分かりません。だから、むしろ6割位でちょうどいいし、4割くらい固まった段階で相談に来ていただいて大丈夫です

私も客観的な意見をもらうことで自分のやりたいことがより明確になった経験があるので、とても共感できます!

アイデアの種を成長させるための環境を整えていく

現状では地域密着型の事業を考えている方が多いというお話がありましたが、宇都宮ベンチャーズとしてはどのような方と関わっていきたいと考えていますか?

新しいことに挑戦したい方はすべてベンチャーなので、既存のビジネスモデルを少し変えている方や、新しいテーマや技術を扱っている方であれば大歓迎です!

あと精神面では、タフでめげない方が向いていると思います。やっぱり結果が出るまでにすごく時間がかかるんですよね。それまでの間にお金は思うように入ってこないし、収入や時間など必要なものは出ていくようなイメージです。ただ、それでもめげずに結果が出るまでやり続けられることが大切だと思います。

確かに、0から1をつくる過程では忍耐力が重要になってきそうですよね。そういった「やり続けられる人」の特徴としてはどんなものがあるのでしょうか。

結局、興味・関心がある領域じゃないと中々続けられないんですよね。なので、自分が「この領域で取り組みたい!」っていうのが見えていて、情熱を注げられることを既に見つけている方に来てもらえるといいのかなと思います。

アイデアの種が芽吹くまでの、最初の殻を破るところまでは自分でやらなきゃいけないと思うんです。そこから先は環境が関係してくるので、『いい環境をベンチャーズでつくっていくと植物が成長するようにアイデアが事業へと育つ』というイメージだと考えています。だから、その前に自分で殻を破ることができる方が来てもらえるといいのかなと思います。

強みは、いつでも相談できる相手や環境があること

利用者の方のアイデアを成長させる環境をつくるための、宇都宮ベンチャーズの強みは何ですか?

相談体制の手厚さです。毎週水曜日はベンチャーズの卒業生や専門家の方、金曜日は中小企業診断士の先生にお越しいただき、相談に乗っていただいています。これは市の事業でもあるので、ベンチャーズと全く関わりがない一般の方でも、創業したい方は相談できるように窓口として設けてあります。

木曜日は私の方で入居者向けの相談対応を行っておりまして、ベンチャーの支援経験者によるインキュベーション1をしています。さらにslackでも相談できる環境を整えています。こういった点から、課題を感じたときにいつでも相談できる相手や環境があるところが強みだと思います

人が集まり、にぎやかになる環境を常につくっていきたい

宇都宮ベンチャーズで活動されている中でやりがいに感じていることは何でしょうか。

コミュ二ティマネージャー2のお2人や宇都宮市の担当者さんが頑張ってくれていて、起業家同士の会話が増えたなと感じています。

経営者って基本的に孤独で、自分で考えて自分で決めないといけないんです。でも、誰かに意見を聞きたいっていうタイミングは必ずあるんですよね。そういう時に、「受付やカフェブースに行けば話を聞いてもらえる」という気持ちでいられることはすごく大切なので、そういう意味ではとても雰囲気が変わったなと思います。

確かに、誰かと話すことで自分では思いつかないようなアイデアを生み出すこともできそうですね!

あとは、普段から割と静かな環境ではあるんですが、たまに人がわっと集まった時にぎやかになる時があるので、そういう場がいつもつくれていればいいなと思います。

場のにぎやかさ、大切ですよね。雑談から派生して生まれるアイデアもきっと沢山あるんでしょうね…!活動の中で一番印象的だった出来事についても教えてほしいです。

今年度最大のインパクトとしては、クラフトビールの体験を兼ねた交流会です。地元のブルワリー3でビールの醸造をされている方を迎えて、「クラフトビールがどうやってできるのか」というような話を聞きながら、10種類ぐらいのビールを飲み比べしました。感染症対策に気を付けながらではありましたが、みんなちょっと酔っぱらいながら、すごく盛り上がりましたね。

そんな風に普段繋がっていない人と話すということは、経営者云々というよりも人として大切だと思ったので、そういう場をどんどんつくっていきたいなと思います。

たしかに、利用者の方同士の会話を促すことで想定外のイノベーションも期待できそうですよね!常川さんは宇都宮ベンチャーズ様に携われる中でどのような価値を提供されているのでしょうか?

以前は相談員として月に1度来るような形でベンチャーズに関わっていたのですが、当時から「会話が少ないな」と感じていたんですよね。静かな場所なのは良いことでもあるんですけど、やっぱりもう少しコミュニケーションが必要なんじゃないかなと思います

やはり、ベンチャーズにとって「コミュニケーション」は重要なキーワードなんですね。そういった思いを実現するために、今されていることについて教えてください。

まずは入居者を増やすことと、その次にベンチャーズがどんな場所なのか知ってもらうことが大切だと思っています

入居者が入る=新しい考え方や知識を持っている方が増えるということなので、そうやって様々な情報に接する機会を増やしていけるといいなと思います。まずは新しいことに挑戦しようとしている方がたくさん集まる場所をつくることが必要だと考えています。

そのために、イベントや日常の風景などを切り取って、コミュニティマネージャーの二人にPRしてもらっています。ベンチャーズでは日々どんなことが行われているのか、情報発信することも重要だと思いますね。

宇都宮ベンチャーズのfacebookはこちら

東京と地方の一番の違いは”腐葉土”の違い

ここで、宇都宮市産業政策課の野村真穂さんにもお話を伺ってみました!

宇都宮ベンチャーズで今後どのようなコミュニティのかたちを実現していきたいですか。

ベンチャーズが起業をする理由になったらいいなと思っています。ベンチャーズでのコミュニケーションや雰囲気が好きだから…という理由で起業する方が増えたら理想的ですね。

ベンチャーズという器を中心に、卒業生が今の入居者に教えるエコシステム4のような環境をつくっていけたらいいなと思っています

これまで20年継続していて、行政がやっているインキュベーションとしては結構長いほうなんですよね。だから卒業生もたくさんいて、今は相談員として来てくれていたりするんです。そんな風に色々な経営者の方が来てくれるところも、新しいチャレンジャーを支援する上で強みなんじゃないかな。

ビジネス書から学習するのと実際に起業した方の話を聞くのとでは、納得感に差がありそうですね。

そうなんです。ある投資家の方がおっしゃっていてすごく腹落ちしたことがあるんですけど、東京と地方の一番の違いは『腐葉土の違い』なんですよね。つまり、蓄積された「失敗した人たち」の数が異なるんです。

そのため、次の挑戦者が育つ土壌に違いがあります。ベンチャーに関しても、東京だと起業する絶対数が多いのでトライアンドエラーが増えて、失敗した人たちから学ぶことも多いんです。一方で地方では、失敗したことってなかなか人に話しづらいし、手触り感がある情報が中々伝わりにくいんですよね。ベンチャーズのコミュニティを使って、この弱みを改善できればと思います。

”宇都宮ならでは”はこれから見つけていけたら

お話を伺う中で、宇都宮ベンチャーズはベンチャー企業にだけフォーカスするのではなく、宇都宮の地域全体としての価値を上げていこうとされているのかなと感じました。

そうですね。視野が狭いと、その中でしか企業同士をつなぎ合わせることができないんですよね。『ベンチャー企業』や『中小企業』など、どういったかけ合わせができるのか常に探っていく、どういうところが本当に宇都宮や利用者の方にとって幸せなんだろうということを常に考え抜くということが大切だと思っています。

固定概念に囚われすぎずに可能性を探っていくことが必要なんですね。その中でも、宇都宮ならではの特徴はありますか?

これからも見つけていくものだと思っています。今までも市の方と一緒に、農業やIOT、食品やスポーツなどテーマを変えてアクセラレータープログラム5に取り組んでいますが、まだまだ正解が見えていない気がします。

一度地元から外に出た身としても、もっと外部の方と関わり地元の方が宇都宮の魅力を理解して発信できるようにならないと、明らかになってこない部分だと思いますね。

確かに、地元の外から見たからこそわかる魅力ってありますよね。宇都宮の特徴を見つけていくために、常川さんはどのようなことを?

まずは、新しい考えを持っていたり挑戦したいことがある方が集まれる場所をベンチャーズでつくること。その結果、着火剤のような存在になれたらいいなと思っています。そうやって環境を整えるために、私たちも日々色々なことを実践しているところです。

ここまでお話を伺って気になったことが。そもそも常川さんは現在に至るまでどのようなご経験をされてきたのでしょうか。

目の前の困っている人をどうにかしたいという気持ちで起業

常川さんはご自身も起業された経験があると伺いました。その経緯はどういったものなのでしょうか?

当時私は商工会議所の職員をしていまして、中小企業の経営支援に携わっていました。そこでは事業計画を一緒につくったり財務内容を見て改善するべき点を助言したりすることはできたのですが、売上向上のためにできることは限られていたんですね

そこで、「もっとそこに自分の時間を使っていきたい」と思ったことが起業した理由の一つになります。さらに、当時は周りの人に経営者が多かったので、「自分も経営者になりたい」という気持ちがどこかにあったんですよね。それらが合致して事業を立ち上げたことが最初のスタートでした。

常川さんは最初、伝統工芸品を活用した事業で起業されたとお聞きしました。どうして伝統工芸品に着目されたんですか?

一般的に、伝統工芸品って厳しい状況の中にあるということは誰もが知っていることだと思います。そこで、「誰かが手を差し伸べなければならないなら自分がやってみよう」と思ったんですよね。

その後、起業をサポートする側に回ったのはなぜでしょうか。

私は起業家のタイプは大きく分けて、ビジョン型・ペイン型・プロダクト型の3に分かれると考えています。ビジョン型が「こういう風に世界があるべきだ」といって旗を掲げてそこまでもっていく人たちで、ペイン型が課題や目の前で困っている人たちに気づいて手を差し伸べたくなる人たち。プロダクト型が「今、自分の好きなものとか満足するものがないからつくっちゃえ」っていう人たちです。

自分は多分ペイン型の要素が強かったんだろうなと思います。最初は、目の前の困っている人をどうにかしたいっていう気持ちで支援をしようと思ったんです

てっきり、起業をする方はみなさん自分の理想を追い求めているのかと思っていました…!起業家の中でも複数のタイプがあるんですね。宇都宮ベンチャーズに関わるようになったきっかけについても伺いたいです。

まず、伝統工芸の事業は、自分で想定していたスケールと実際の事業に相違があって、そこまで大きくすることができなかったんです。それで、アクセラレーター6として東京でベンチャー支援の仕事を学び直しました。そのときに思ったのが、自分の情熱を注げることは商工会議所でやっていた支援とはまた違ったやり方であるということと、ビジネス書で得られるものと実際の現場は違うということです

そして、やはりベンチャー支援は自分の好きなことだと気づいたので、それを仕事としてできるようにと会社を立ち上げました。その後、ベンチャーズとはアクセラレータープログラムなどで関わりがあったのですが、今年度からベンチャーズ運営の事業者として当社で提案を行うことになったという経緯です。

ベンチャー支援に対する熱量が伝わってきます…!やはり一度外部に飛び出してみることも重要なんですね。

「繋がっていないところを繋げる」を実現したい

最後に、今後、常川さんや宇都宮ベンチャーズがどのような方向性で活動されていくかお聞きしたいです!

まずは足りないものを埋めていくところからやっていこうと思っています。事業開発の方法には、『ギャップフィル型』『ビジョン設定型』という二つの課題の捉え方があります。ギャップフィル型はユーザーをマイナスからゼロの状態まで持っていく方法で、ビジョン設定型がゼロ(満たされている状態)からさらに良い状態、あるべき姿にまで持っていく方法です。

現状だと、前者の方法でゼロに近づけることから始めたいなと思っています。つまり、ベンチャーズをいわゆるインキュベーション施設と言えるところまで持っていくために、『○○×ベンチャー』のように、まだ繋がっていないところを繋げていきたいです。それができれば、宇都宮の本当の魅力を発見することができ、ベンチャーを基軸とした新しい経済的なインパクトをつくれるような気がしています。

今回のインタビューを通して、ベンチャーズではただ単に「人が集まっている」という状態をつくるだけではなく、活発で多様なアイデアの交換ができる状態をつくることを重要視している印象を持ちました。

孤独になりがちな起業家の交流の場をつくり、個人では生まれなかったようなイノベーションを共同体の強みを活かして創出していくことは、非常に意味のあることだと感じます。

こうして宇都宮ベンチャーズの力で宇都宮の街から新しい”何か”が始まるのかもしれないと思うと、とてもワクワクしますよね!

各種情報

宇都宮市起業家支援施設(愛称:宇都宮ベンチャーズ)施設情報
住所:宇都宮市中央3丁目1番4号栃木県産業会館3階(見学希望、相談予約等お問い合わせ)
TEL:028-680-6010
営業時間:8:30~17:15(土日・祝日・年末年始を除く)
facebook:https://www.facebook.com/utsunomiyaventures/