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〈仕事紹介〉ごちゃまぜな地域で高齢者の孤立解消!?『一般社団法人えんがお』が目指す景色はたくさんの笑顔であふれていた

「足が痛くて動けないから、家まで来てほしい」

ある日、一般社団法人えんがおに1本の電話がかかってきました。電話の発信者は、えんがおを利用しているおばあさんです。

急いで駆け付けた家には、畳の部屋で座り込んで動けなくなっているおばあさんの姿がありました。

「大丈夫?どこが痛むの?」

えんがお代表理事・濱野将行さんはおばあさんの手を握り、いつも通りの調子で言葉をかけます。

「今日の朝転んでから動けなくなっちゃった。洗濯物も干せなくて、ベッドにも上がれない…とにかく横になるのを手伝ってほしい」

「そうだね、横になろうか」

濱野さんは慣れた手つきでおばあさんの怪我の具合を確認しながら、その場の逼迫した空気を少しずつ和ませ、平常へと戻していきます。

その後、おばあさんは無事病院へと行くことができましたが、この現場はある社会問題を浮き彫りにしていました。

高齢者の孤立問題に立ち向かう

「つながりがない」「困りごとを頼める相手がいない」「会話がない」。このデータから見えてくるのは、深刻な高齢者の孤立です。

こうした現状を打開すべく、2017年に設立されたのが『一般社団法人えんがお』。“誰もが人とのつながりを感じられる社会”を目標に掲げ、高齢者の生活支援から障害を持つ方のグループホーム、地域食堂の運営まで幅広い事業に取り組んでいます。そんなえんがおとは、一体どのような団体なのでしょうか。

訪れたのは、栃木県大田原市に位置するえんがおの事務所。1Fには地域の人が集まるサロン、2Fには学生のための勉強スペースが併設されています。

今回は代表理事・濱野 将行(はまの まさゆき)さんにお話を伺い、えんがおの活動や込められた思いに迫ってきました!

制度の狭間で生きる人々のために

利用者さんひとりひとりと向き合うスタイルを大切にしているえんがお。

お話を聞く中で、濱野さんが作業療法士のお仕事を通して得た経験や、活動に込める思いが垣間見えました。

2011年3月に起きた東日本大震災は、僕を変えた出来事でした。当時大学1年生だった僕は、その惨状を前に自分の無力さを思い知らされ「なにかできる人間になりたい」と強く思うようになったんです。その後学生の間は色々なボランティアをし、卒業後は作業療法士の道に進みました。

そうだったのですね。作業療法士での経験がえんがおの設立につながったのでしょうか?

そうです。仕事をしているなかで『高齢者の孤立』という問題に直面しました。でも、作業療法士は制度の範囲内でしかその問題にアプローチすることができなかった。制度の狭間で支援を受けたくても受けられない人がたくさんいるという現状に歯がゆさを感じ、そうした人を救う仕事をしたいと思ったことをきっかけに、えんがおを立ち上げました。

制度の狭間、ですか?

はい。例えば誰かと一緒に住んでいる場合でも、実は毎日のほとんどをひとりで過ごしていて会話もない、孤立状態の高齢者が多いんです。でも、こうしたケースでは独居高齢者の制度は受けられない。僕らは、そんな方々のお宅にお邪魔して、生活の困りごとを解消したり自立するための手助けをしたりしています。

なるほど。制度内であれば既定のことに要望を当てはめられますが、制度外のことをしようとすると、まず相手の求めることが何なのかを掴まないといけないことが難しそうですね。

そのためには、目の前の人の声を聴くことを1番に意識しています。「こうすればいいだろう」という仮説ではなく、「〇〇さんが困っているからこの支援をする」というように、利用者それぞれの話を聞いて生活支援の内容を決めています。

ひとりひとりとのコミュニケーションを重要視しているのですね。

常に相手と丁寧に関わることを心がけています。そもそも生活支援は高齢者とつながりを生み出すための手段なんです。だからこそ、困りごとを解決すること以上に何気ない会話の時間を大切にしたいと思っています。

『持続』し『波及』していく団体を目指して

事業が成り立つことだけでなくその先の人々の笑顔を見据えた事業を展開していると語る濱野さん。地域に根付いた双方向的な関係づくりには、どのような秘密があるのでしょうか。

支援する側と支援される側の分断性をできるだけなくしたいと考えています。これには、対等な関係をつくることが必要です。

そのために向き合ってよかったと感じるのはお金のこと。無料で何かをやってあげることって、その場では楽でも長期的には続かないんです。例えば、友達がいつもご飯を奢ってくれると自分から遊びに誘いづらくなりますよね。それと同じで、利用者さんが「また来週も来てね」と言えるようにするには、きちんと値段を設定してお金をいただくことが大事です。

代金をきちんと設定することには、事業を成り立たせる以上の意味があるのですね。

波及性のある在り方を目指していることも、えんがおが経営に気をつかっている理由のひとつです。
僕らは地域に密着したサービスを行っているので、他の地域で困っている人を直接救うことは難しい。でも、経営的に成り立たせられるサービスを作り、その情報を全部公開すれば、それを真似して誰でも新しい事業を始めることができます。今では茨木や群馬など各地でえんがおをモデルケースにした活動も始まっていて、嬉しいですね。

継続性と波及性を考えることでより広い視点から高齢者の課題解決を志しているのですね。そのために特に意識しているのはどんなことでしょうか。

信用をつくり出すことです。そのために、目の前の人を幸せにすることはもちろん、その様子やえんがおの思いを発信することでいろんな人に取り組みを知ってもらうことにも力を入れています。

それはどうしてですか?

信用が集まり関係人口が増えることで、よりたくさんの人を幸せにできると考えるからです。今はシェアリングエコノミーの時代で、様々なものが様々な場所に集まり続けています。そんな中、ものが集まるのはどんな組織かというと、信用されている組織なんです。人々は、その組織がたくさんの人に笑顔をもたらすことを信じてものを寄付してくれます。僕らも信用の積み重ねで、空き家などを提供していただくことも増えました。

空き家を利用したシェアハウスやグループホームの運営の基盤にあるのは信頼だったのですね!

2つの心がけで、相手も自分もハッピーに

活動の幅を広げる過程で組織自体の規模も拡大していきますが、小さな組織だったときとは別の性質が生まれてくるかと思います。

組織は、規模が10人大きくなるだけでもその性質がまったく変わってくるし、各段階において課題も出てきます。そこで大事にしているのは、えんがおの軸となる価値観を言語化し、みんなと共有しておくということ。そうすることで、本当にやりたいことを見失わないようにしているんです。えんがおに合う人は残り、合わない人は離れる。そんな環境を作ることができています。

あくまで選択のひとつとして団体の在り方を提示しているんですね。それでは、えんがおの核となる価値観とはどういったものなのでしょうか。

「目の前の人を笑顔にすること」と「自分が楽しむこと」です。このふたつは明確な価値観として常に持っています。

前者はこれまでのお話にも通じることですが、後者の「自分が楽しむこと」という価値観には、どのような思いが込められているのでしょうか。

相手を助けることに一生懸命になっていると、楽しむことは二の次になってしまいがちです。でも、自分たちが楽しんでいるからこそ人が集まってきたり、応援してもらえたりすることはとても多いと思っていて。だからこそ「自分が楽しむこと」をあえて価値観として言語化し、みんなと共有することを心がけるようにしています。

自分が楽しみながら誰かを笑顔にできるって、本当に素敵なことですね。

そうですね。高齢者の孤立している社会を自分たちの手で変えたいという使命感は強く持っているけれど、肉体的にしんどいときや余裕のないときは100%の使命感でものごとに向き合えるわけじゃない。そんな中、「自分たちが面白いからやる」ということが1番のモチベーションであることが頑張れる秘訣かなと思っています。

今まで活動されてきた中で、大変だったことはどんなことですか?

そうですね…度々高齢者の家に伺うので、ありとあらゆるトラブルが起こることは覚悟しています。むしろ、トラブルを解消していく過程で活動をさらに洗練させていきたいです。だからこそ大変なことはあるけど辛くないし、トラブルも含めて現場は楽しい。そう感じながら日々仕事をしているので、大変だったエピソードってあまりうまく話せないんですよ。

確かに、単純に『大変だったこと』として話してしまうと、そこで得られる成長やつながりが見えにくくなってしまいますね。

『大変=悪い』みたいな価値観が社会には根付いているけれど、そもそも人間関係に大変さはつきものです。でも、その大変さのなかで相手のことを理解したいと思うし、愛おしいと思う。そんな煩わしさの奥にある人間らしさを面白がりながら活動しています。

世代も障害も越えた交流の先にある社会とは

生活支援、空き家を活用した勉強場所の提供、障害のある方向けのグループホームの運営など幅広い事業を展開するえんがおは、どんな社会を目指しているのでしょうか。

えんがおでは、高齢者の生活支援のみならず、様々なアプローチから社会課題に取り組んでいるように思います。そこにはどんな意図があるのでしょうか。

求められることを積み重ねていった結果が今の事業展開につながっている側面が大きいです。活動していると、高齢者とだけ関わっていても高齢者の孤立問題は解決できないということが分かってきます。孤立の予防解消のためには、子供から高齢者まで障害の有無に関わらず今ある分断性をなるべくあいまいにし、高齢者自身が地域のプレイヤーになってもらうことが必要なんです。

地域のプレイヤーとは、どういう意味ですか?

具体的には子供の片づけを手伝ったり、精神知的障害を抱えている人が来たときにちょっと気にかけてあげたり、来客にお茶を出したりと、高齢者が地域でちょっとした自分の役割を持つということです。高齢者がほかの世代と関わる環境をつくれれば、おのずとプレイヤーになりやすく孤立の予防解消にもつながります。

そのためには、子供たちの居場所をつくろう、障害のある人の居場所もつくろうというように、必然的に活動の幅が広がっていきました。

より根本的な問題解決を考えたことが今の在り方につながっているのですね。えんがおが目指す先には、どんな社会が広がっているのでしょうか。

今の社会は、人の持つ弱い側面にばかり注目してしまうことが多いと思っています。例えば、いろんな特技やストーリーを持つおじいちゃんも、認知症になったら『認知症のおじいちゃん』としか認識されなくなってしまう。これは、ものすごくもったいなくて悔しいことです。
大体の場合、弱さは持ちたくて持っているわけじゃなく病気や環境などの不可避な要因によって持たされている。その弱い側面が誰かの支えによって薄まって、自分の輝けることで普通に生きられる、そんなごちゃまぜの社会が広がっていてほしいです。

なるほど。世代も障害も越え、ひとりひとりがありのままに暮らせれば、そこはきっと誰にとっても幸せな場所になりますね。

主体性を尊重し、若者と共に成長できる場でありたい

えんがおでは様々な若者を受け入れており、『活動体験』も実施しています。
そこには、「若者の居場所や選択肢のひとつになりたい」という思いがありました。

活動体験を希望する人は、自分で何かをやろうと思える人が多いです。相談があれば何らかの方法で自分から発信してほしいし、発信してくれれば僕らも全力で一緒に考えたい。環境のせいにせず自分から行動しようとできる人は、きっとえんがおでも成長できると思います。

主体性が鍵なのですね。
活動体験に参加したい場合は、どうやって申し込めばいいのでしょうか。

自分で学びたいと思って来る学生だけを対象にしているから、正式な募集はしていないんですよ。意欲さえあれば、SNSから連絡をくれたり、友達の紹介で来てくれたり、どんな参加の仕方でも大丈夫です。

今、えんがおにはどんな若者が関わっていますか?

活動に参加している学生のほかに、学校が合わなかった中学生や高校生も遊びに来てくれています。学校に行きたくなければえんがおにいればいいし、学校に行きたくなれば行けばいい。そんな選択肢のひとつになれたらと思います。

様々な人にとっての居場所になっているのですね。これから一歩を踏み出そうとしている若者にメッセージをお願いします。

とにかく迷ったら行動に移してみてください!

自分から動かないと何も始まらないし、変わらない。一歩を踏み出そうとすることは覚悟がいることだと思うけど、そんなときに僕がとても大事にしているのは、『丁寧に生きること』です。この考え方がきっと何かに迷ったときにあなたの背中を押してくれます。

丁寧に生きること、ですか?

特に今の社会ではSNSやさまざまなツールが発達していて、どんな選択においても他人の声に意識を奪われがちです。そんな中で、本当に自分がやりたいことや自分の感情と向き合わないまま1日が終わってしまうことも多い。

1日のうち5分だけ自分のための時間を作ることで、今何を感じていてどういうことにもやもやしているのかにしっかり向き合ってみてください。そうすると、自然とやりたいことはやろうと思えるし、店員さんにはごちそうさまって言いたくなる。若いうちに、これを習慣化しておくことをお勧めします。

何かに挑戦するには、まず自分自身と向き合うことが大切なのですね。人生をより良くするためのヒントに気づかされました。

生活支援利用者さんへのインタビュー

えんがおの生活支援に同行し、普段からサービスを利用している樺沢さんにお話を伺いました。

私のケアマネージャーが濱野君を紹介してくれたのがえんがおを知ったきっかけでした。爪切りに困っていることを話したら濱野君が切ってくれるって言って、それから色々頼むようになったんですよ。生活支援に来てくれるのをいつも楽しみにしています。

そうだったんですね。特に心に残っている出来事はなんですか?

お花見に行ったことですね。私は足が悪いから、普段は外に出られないんだけど、えんがおのみなさんが車で連れて行ってくれました。若い子ともたくさんお話ができて、本当に楽しかったです。

とても素敵ですね。えんがおを利用するようになってから何か変わったことはありますか?

人生がぱあっと明るくなりました。スタッフの方も優しい方ばかりでいつも感謝しています。今はコロナでなかなか外出はできなくなっちゃったけれど、またコロナが収まったらみんなでお出かけしたいですね。

インタビューに答えてくださった樺沢さんの瞳は、輝きに満ちていました。

「困っている人に手を差し伸べること」
「誰もが自分のままでいられる空間を作ること」

そんなシンプルなことが、少しずつ着実に社会に変化を生んでいる現場に出会い、私も自分にできることは何かを考えてみたくなりました。

“誰もが人とのつながりを感じられる社会”を目指し、最前線で高齢者の孤立問題に向き合い続けるえんがおは、今も誰かの笑顔をつくり出し続けています。

えんがおの活動に関心を持った方は、ぜひHPやSNSをチェックしてみてください!

一般社団法人えんがお
住所:〒324-0051 栃木県大田原市山の手2-14-3 旧安田酒店 現「コミュニティハウス みんなの家」内
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