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〈仕事紹介〉栃木県産の食材を宇都宮市のお酢に漬けこんだ“宮ぴくるす” 。逆境を乗り越え挑戦し続ける『株式会社Cooking&Glow』とは?

みなさん、『ピクルス』と聞いてどんなものを思い浮かべますか?

ハンバーガーに入っているキュウリのピクルスやカットされた野菜のピクルスなどを想像されるのではないでしょうか。

こちらの写真をご覧ください。

実はこれ、すべてピクルスなんです

野菜はもちろんのこと、うずらの卵や大豆、なんとフルーツまで漬けられています。

ピクルスに関して、某ファストフード店のハンバーガーに入っているというイメージしか持っていなかったライター関根は、これを見た瞬間ピクルスのイメージが覆されて衝撃を受けました。

今回は、そんな『宮ぴくるす』を製造販売している株式会社Cooking&Glow 代表 金原 恵美(かねはら えみ)さんにお話を伺いました。

店内に入ると、早速お酢のいい香りが…!

『宮ぴくるす』を購入できるこの場所には工場が併設されており、この日はトマトといちごのピクルスを製造中。

早速、金原さんがおすすめのピクルスを教えてくださいました。

どんな食材も大切に。いずれは自ら育てた食材でピクルスを作りたい

いちじくは女性にすごく人気があります。ピンク色で可愛くて、食べたらびっくりすると思いますよ!ぜひ食べてみてください。

美味しいです…!お酢もまろやかで食べやすいですね。フルーツや野菜は栃木県産なんですか?

そうです!近所の農家さんに、形があまり良くない大根やごぼうなどのお野菜を安価で売っていただいて、そういったお野菜を積極的に使用しています。いちごは、いちご観光農園で観光客に摘み残されたものを分けていただいていて、売上の一部は観光農園さんにキャッシュバックしているんです。

まさに三方良しですね!フードロスや地産地消を気にかけるようになったきっかけは何だったのでしょうか。

祖父母が栗と野菜の農家で、食べたいものが何でも食べられる豊かな環境で育ったんです。そんな中にいると、当たり前のようにある豊かさが実は貴重なものだということをうっかり忘れてしまうんですよね。ただ、地産地消は食育の基本でもあるし、豊かさを当たり前に思わず大切にしたい思って。そのことを子どもたちに伝えていかないといけないなという使命感もあります。

そうなのですね。自ら農業をやりたいという想いもありますか?

いずれはやってみたいですね。一方で、農業は片手間ではできないことだと理解しているので、しっかり時間をつくれるようになったらやりたいなと思っています。ゆくゆくは、自分で作った野菜でピクルスを作ることができたら良いですね

Cooking&Glowの代表取締役だけでなく、『食育指導士1』の資格を保有し『キッズ料理研究家』としても活動している金原さん。どうして食育に興味を持ち、資格を取ることになったのでしょうか。

食べることは生きること

3児の母なのですが、3番目の子どもが生まれた時、徹底して『主婦のエキスパート』になろうと思ったんです。その中でも「食って大切だな」と強く感じて。“食べることは生きること”ですからね。「子どもたちが帰ってきた時にいつも良い匂いがする家にしたい」「子どもたちを心の満たされた環境で育てたい」という想いがあったので、“食”に目が向きました。

素敵です。衣食住の中でも、金原さんは“食”を大切にされていたんですね。

長女が小学5,6年生の頃、お米を使ったお料理に関するレポートの宿題があったんです。夫が韓国と日本のハーフで、娘たちはクォーターなんです。そこで娘に、「トック2でスープを作ってレポートを出したらどう?」と提案したんです。そしたらそれが先生の目に留まって、「同じ学年の子どもに作り方を教えてあげてほしい」と言われて。その時初めて教壇に立って、子どもたちに料理を教えたんですね。それがすごく楽しくて、「こんな仕事がしたいな」と思ったんです。

思わぬところから学校で料理を教えることになったんですね!

でも今から勉強して家庭科の先生になるのは難しいと思ったので、何らかの形で子どもに料理を教えられないかなと考え、2007年に『食育指導士』の資格を取りました。

その時授業をしていなければ、今の金原さんもCooking&Glowもないということですね。運命的です…!

金原さんはお子さんが産まれる前から、子どものために何かしたい、料理の仕事がしたいという想いを持っていらっしゃったのですか?

全然なかったです。ただ、「健康で過ごしていきたい」という想いはありましたね。祖父母が栗農家で美味しい野菜が身近にある環境にいたので、“健康”は基本的かつ当たり前だったんですよね。

主婦のエキスパートになることを目指し、特に料理に力を入れてきた金原さん。食育指導士の資格を取るまでは、一体どのようなことをしていたのでしょうか。

仕事と子育てを両立する日々。自分が映った冊子を見たとき、パートをやめようと思った

高校卒業後、3年間事務職の仕事をしました。その後結婚して家庭に入り、衣食住に関することを学びながら、主婦のエキスパートを目指していました。子どもが幼稚園児だった頃は、近所のお母さんたちと一緒に料理を作ったりパンを焼いたりしていましたよ。

息子が3,4歳になった2006年に、宇都宮の子育て情報のフリーペーパーが出て、幼稚園で配られたんです。その時に、「なんて素敵な冊子なんだろう」と目が止まって

美味しそうな料理がたくさん…!金原さんのお名前も掲載されていますね!

冊子の一文に『クルールのスタッフを募集』という文言を見つけて、すぐに電話をかけたんです。そしたら「間に合ってます」と言われてしまって。でも偶然、息子が通う幼稚園にクルールを発行している会社の社長さんがいらっしゃったので、直接お願いしてみたんです。その時に「やってみますか?」と言っていただいて、2008年6月号から私も携わるようになりました。

クルールで働きたいという想いが届いたんですね。

ただ、この冊子は隔月の発行だったので、お仕事は2ヶ月に1度しかなかったんです。打ち合わせや撮影を入れても2ヶ月の60日のうち5日間くらいしか仕事がなかったので、残りの時間はメール便のポスティングの仕事をしていました。朝8時半に届いた100通のメール便を住所順に分けて約1時間で配るんです。料理の仕事や子育てをしながらできる仕事だったので、当時は「こんなにいい仕事は無いな」と思っていました。

仕事と子育ての両立ができる、金原さんにぴったりのお仕事だったんですね。

でも徐々に料理の仕事が忙しくなってきた頃、ふいにメール便の中身が見えて。それをよく見たら、自分が映った冊子だったんです(笑)自分の料理教室の様子が掲載された冊子を自分が入れるって、これは辞め時だなと思いましたね。

手放すと新しいことが舞い込んでくる。今後の人生を大きく変える出会い

その後、料理1本で仕事をするようになってから、色々な仕事が舞い込んでくるようになったんです。収入的には安定していたのですが、「もう1度何かやりたい」という余力が出てきたんですよね。そんな時に、お隣に住んでいた女性に誘われて、宇都宮大学の『起業の実際と理論』という講座に行ったんです。

講座ではどんなことを学ばれたのでしょうか?

『起業の実際と理論』というテーマでビジネスモデルを作り、受講生の前で発表しました。私は、「働くお母さんを支えるために地域の子どもたちにお弁当を届ける事業を行いたい」と発表したんです。その時、審査員だった伊川 夢起さんが「出資するから会社を立ち上げないか」と言ってくださって、2016年8月に立ち上げたのが『株式会社Cooking&Glow』なんです。

お隣さんに誘われて参加した講座がきっかけで、起業をすることになったんですね…!金原さんの人生は、『人との出会い』によって変化しているように感じます。

人との出会いをきっかけに、事業を拡大・変化させてきた

偶然の人との出会いやタイミングで、様々な挑戦をされてきたんですね。

そうなんです。会社設立後、宇都宮市の農業振興課の方から「女性農業士3さん向けの料理教室を開いてほしい」とお声かけいただいて、簡単で楽しい旬の野菜を使った料理教室を開いたんです。

ひとしきり料理を教えた後、参加者の女性農業士さんが「良かったら食べて」とかんぴょうとごぼうの漬物を出してくださったんです。それが今日私が教えたどのメニューよりも美味しくて、すごく衝撃を受けました。女性農業士さんはいつも農作物と向き合っているから、食材の1番美味しい食べ方を最も知ってる人なんじゃないかって思ったんですよね

金原さんが衝撃を受けたお漬物の味、気になります…!

実は、その漬物を参考にしたピクルスも販売しているんですよ!

話を戻すと、当時(2018年頃)女性農業士さんに、東武宇都宮百貨店の『アグリランドシティショップ』にお弁当やお惣菜を置く機会をいただいたんです。お弁当やお惣菜、ピクルスなどを持っていったのですが、正直売れなかったんです。女性農業士さんにも、「旬の野菜を作って置くようなショップだから、お洒落で彩りが良くてわざわざ買ってきた野菜で作ったようなお惣菜は求められてないんだよ」と言われて。すごくショックでしたが、事実なんですよね。当時は「自分が良いと思ったものを持っていく」という行き当たりばったりのスタイルだったので、それではダメだと学びました。その後、試行錯誤する中で徐々にターゲットも分かってきて、少しずつ売り上げも伸びてきました。

始めから上手くいったのではなく、挫折を繰り返しながらやってきたんですね。

2019年の1月に現在の中島町にセントラルキッチン4を移しました。元々は25年地域に愛され続けた『雀宮農産加工所』があった場所なんです。そこが取り壊されると聞いて、地主に何度も頭を下げ継承させていただきました。

その後、『雀宮農産加工所』のレシピを教わり、今までの商品をブラッシュアップしたんです。お弁当・お惣菜・料理講師の三本柱でようやくCooking&Glowの売上が見えてきて、「よし、これからだ!」という時、流行したのが新型コロナウイルスでした。

事業が軌道に乗り始めたタイミングで新型コロナウイルスの影響を受けることに。そんな最大の危機を金原さんはどう乗り越えたのでしょうか。

毎日仕事があるという幸せ

三本柱すべてが壊れそうになった時、「もう終わりだ」と思って会社を辞めることも考えました。でも、起業する際に出資していただいた伊川さんに「みんな売上なんて落ちてるよ。その中でこんな道半ばで辞めちゃうのはもったいないと思いますけどね。でも、辞めたいんだったら辞めたらいいんじゃないんですか」と言われたんですね。

私負けず嫌いなので、それを聞いて悔しくなりました(笑)「頑張って起業して、軌道に乗っていたのに」と何度も泣きましたけどね。そんな時に一人のスタッフが、「ピクルス一本で行きましょう」と言ってきたんです。最初は「無理でしょ」と思いました。でも、スタッフが「私たちにしかできないことじゃないですか。みんな喜びますよ。支えますから」と言ってくれて。そこで覚悟を決めて再出発しましたね。ピクルス一本にして販売開始したのが2020年6月です。この経験を通じて、「毎日仕事があるってこんなに幸せなことなんだ」と痛切に実感しました。

心強いスタッフの皆さんですね。コロナ禍になってから2020年6月の販売開始までのスピードが非常に早いと思うのですが、その中で大変だったことはありますか?

必死の思いだったのですが、「やるぞ」と決めていたのでスムーズでしたね。ピクルス一本に決めた時はもちろん不安もありましたが、売上は徐々についてくるだろうと信じて、前に進んでいく他なかったです。

販売開始から現在に至るまで、『宮ぴくるす』はどのように成長してきたのでしょうか?

宮ぴくるすが完成してから、かねてから交流のあった宇都宮餃子会の会長に持っていったんです。すると会長が、「宇都宮市に特化したピクルスを作るなら宇都宮市に240年続く良い酢蔵があるから紹介するよ」と言ってくださって。それが現在も使用している『中野嘉兵衛商店』さんの『もろみ酢』なんです。

初めて食べた時、「こんなに素晴らしいお酢があるんだ」と感動しました。そこから、「宇都宮生まれの私たちが栃木県産の野菜を宇都宮産のお酢で漬けたピクルスを作って、宇都宮市のお土産にしてもらいたい」と思うようになったんです。「宇都宮市と言ったら餃子だよね、宮ぴくるすだよね」と言ってもらえるようになりたいなと。

宇都宮市や栃木県への強い想いを感じますね。

それから、農家さんや飲食店、ホテルなどからオリジナルピクルスを作ってほしいという依頼が入るようになりました。YouTubeやテレビ番組で取り上げていただくことも増えて、全国からの注文も増えたんです。その時からギフト品も作るようになり、ふるさと納税品にも登録をして、テレビのニュース番組でも取り上げていただきました。それをきっかけに多くの方に宮ぴくるすを知っていただくことができて、取扱店が増えてきて、売上も伸びたんです。

少しずつ認知度や売上を上げていって今があるんですね。金原さんは、現在も料理教室の講師をされていますよね?

はい!月に1度、『とちぎ福祉プラザ』で開催しています。小学生を対象に、毎回20名程度が参加してくれています。1度全員に作り方を教えて、その後はグループに分かれて子どもたちだけで調理をしてもらっています。

どういったものを作るのでしょうか。

季節に合ったメニューにしていて、例えば3月は桜餅とちらし寿司、夏は夏野菜のピザなどですね。

そういったものを自分で作ることができたら、子どもたちの自信にもつながりますね。Cooking&Glowの事業を宮ぴくるす1本に絞ってからも、金原さんが料理教室の講師を続けているのは「子どもたちの自己肯定感をあげたい」「栃木産の美味しい食材の魅力を知ってほしい」という想いからなのでしょうか。

それもありますが、「忙しいお母さんの代わりに子どもたちに料理や食材について教えたい」という想いが強くあります。私は農業は出来ないけれど、料理教室を通じて子どもたちに料理を教えることはできるので、それによって子どもたちが農家さんを身近に感じられるようになってくれたらいいなと思っています。

子どもの頃から、食材を大切にする気持ちが芽生えそうですね。

実は、宮ぴくるすの製造工場は就労支援施設を兼ねているんです。金原さんはどのような想いで就労支援施設を整えたのでしょうか。

障がいのある方を雇用したい

義姉が障がいを持っていて、ずっと家に引きこもっていたんです。その様子を見ていたので、起業した時には「障がいがある方を雇用することができたら」と考えていました。お弁当の製造販売や講師業では難しかったのですが、事業を宮ぴくるす1本に切り替えて売上も伸びてきた頃、「今なら障がいのある方を雇用できる」と思いました。伊川さんにもお力添えをいただき、現在は就労継続支援A型事業5として雇用契約を結び働いていただいています。

金原さんの温かさ、優しさ、そして熱い想いはみなさんに伝わりましたでしょうか。

金原さんは、今後も宮ぴくるすの製造販売に力を入れていきたいとのこと。

今回お話を聞かせていただいて、どのような状況でも諦めず挑戦し続ける強さと包み込んでくださるような優しさを感じました。

そしてほぼ全種類の宮ぴくるすを試食させていただき、どれも本当に美味しく非常に迷いましたが、『うずらの卵の宮ぴくるす』を購入しお持ち帰りしました。カレーの付け合せにもぴったりで、見た目も可愛らしいのです。

この取材以来、ピクルスを見かけるたびに宮ぴくるすと金原さんが頭に浮かぶようになったライター関根でした。

宮ぴくるすに関心を持ってくださった方は、ぜひ店舗やオンラインストアをチェックしてみてくださいね!

各種情報

『Cooking&Glow』店舗情報

住所:栃木県宇都宮市中島町613
TEL:028-612-8650
営業時間:9:00-17:00
定休日:土日祝日
駐車場:無

公式HP:https://cookingglow.storeinfo.jp/
オンラインストア:https://cookingglow.thebase.in/
Facebook:https://www.facebook.com/cookingandglow/
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Twitter:https://twitter.com/miya_piku
宮ぴくるすが製造される様子:宮ぴくるす いろいろ野菜のぴくるすが出来るまで