文化を受け継ぐプレイヤーとしての言葉。『烏山語りの会』会長 五月女佳子さん
目次
みなさんは、自分の住んでいる地域に受け継がれているモノやコトを知っていますか?
ライター小野が住んでいるさいたま市にも夏頃に昔から続くお祭りが開催され、お祭りのときは町が賑わいをみせています。
取材に伺った那須烏山市は、平成の市町村合併で、旧烏山町と旧南那須町の2つの町が合併してできた地域です。この地域には現在も100話を越える民話があり、またそれを語り継いでいる人たちがいます。
今回は、そんな地域の民話を語り継いでいる「烏山語りの会」会長 五月女 佳子(そうとめ よしこ)さんにお話を伺いました。
今回お話を伺った方は…
烏山語りの会 会長 五月女 佳子(そうとめ よしこ)さん
栃木県那須烏山市生まれ育ち。地元の高校を卒業後、県内で学校職員として勤務。定年退職を機会に現在会長を務める『烏山語りの会』をはじめとするボランティア団体等に参加している。
『烏山語りの会』の発足、五月女さんが参加した経緯について
『烏山語りの会』が発足した経緯について教えてください!
私が今年度で退職となる年の秋、公民館講座で民話の語りの先生が来て、「どのように民話を語るのか」について私たちに教えてくれたことがきっかけでした。
全部で3回ぐらいの講座だった気がします。語りの先生が来てくださって講座を聞いたのですが、講座が終わった後、「せっかくなら講座を受けた人たちで会をつくりましょう」となり『烏山語りの会』をつくりました。
五月女さん自身が語りの会に入ろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
これまで仕事と家庭で忙しく、それ以外のことは何もしていなかったのですが、あと何ヵ月かで退職になる時に「退職したら何をしよう」と考えていました。そんな時にこの講座(民話語りの講座)があって、「昔から私はいわゆる昔話が好きだし、何か一つ(退職後に取り組むことの)きっかけをつくっておこう」と思って講座に参加したことがきっかけです。
なるほど、そんな背景があって『烏山語りの会』が誕生したのですね!具体的にいつ頃活動が始まったのでしょうか。
会が立ち上がったのは平成17年の9月だったと思います。だから計算すると今年で19年目ですね。
とても長い時間活動を続けていらっしゃるのですね!どのような人達が集まって活動をされているのでしょうか。
民話が本当に好きな人が集まっています。活動を始めた頃はなかなか上手く出来ませんでしたが、発表会を重ねる度にお客様に喜んで頂ける発表会を出来るようになりました。それでも舞台に立つと足が震えることがありますね。
語る前に勉強。語りの会で取り組まれていること
『烏山語りの会』で行われている取り組みについても教えてください!
普段はみんなそれぞれ、色々な民話や語りに関する本を読んだりとか、「こんな話をしてみたいな」「こんな民話を語ってみたいな」など、最初に自分たちが勉強していますね。
そして自分たちで勉強をした語りは、今はボランティアとして社会福祉協議会に届出をしていますので、施設などから依頼があれば、ボランティアとして烏山の民話をはじめとする様々な語りを聞いてもらうために出向いています。他にも催し物で頼まれた時は自分たちの行ける範囲で行って語りを披露していますね。
語る前に自分たちで勉強するのはとても印象的でした。具体的にどのようなことに取り組まれているのでしょうか?
語りの勉強は個人でやったり、毎月の月例会の時に「こんな勉強をしたんだけど」と聞いてもらったりしています。あとはこうした語りをする団体は県内にいくつもあるので、他所の団体で発表会等があった時はできるだけ足を運び、人の語りも聞くようにしています。そうすると「こんな語り口があるんだ」「こんな話があるんだ」と気づくことができるんです。
他の語りの人との交流を通して、自分では気づかなかったことに出会えるって素敵ですね!
そうですね。とにかく色々な企画で「こんなのやりたいんだけど協力してくれない?」と言われた時はできる範囲で取り組むようにしています。それも勉強だと思っていますので。
「出来る範囲で取り組むこと」。これは長く続ける上で大切なことかもしれませんね。
那須烏山市(旧烏山町・旧南那須町)に語り継がれる民話について
那須烏山には100話を越える民話があるとお聞きしたのですが、本当にたくさんの民話があるのでしょうか?
烏山には民話がたくさんあるんですよ。ただ昔の本から引っ張り出したものなんかは「そんなお話があったの?」というものもあります。その中で私たちが語るのはいくつか分からないけど、数としてはたくさんあります。もちろん私たちも中々語りきれない話もあるんだけど、(この地域が)民話の宝庫だと言われていることは確かです。
そして見させていただいたのは、この地域に受け継がれている民話が書かれている本。最新の本(写真一番左)ではたくさんある民話の中から第一弾として2017年に発行されています。
ここには烏山地区の民話が30話、南那須地区の民話が10話で全部で40話の民話が載っており、中には昔の民話の本にはない「日野町の空襲」や「川ぴたり」といった話も採話されたとか!
この本はみんなで何回も集まって、今の子どもたちが読んでも分かる文章になるようなるべく平易な言葉で作りました。ただ、民話の話が分からなくならないように使う言葉も考えました。
時代の流れに沿って民話の中の言葉も変わっていくものなんですね。
語り手が感じる民話を語る難しさ
自分は台本があると逆に話せなくなるタイプなのですが、五月女さんは民話を語る時には台本をつくられたりするのでしょうか?
語りもインタビューと同じで、台本通りに読もうとして「これ違った!」と思ってしまうと先に進まなくなってしまうので、話の筋だけはきっちり覚えるようにして、あとは自分の言葉で足し引きしながらその時の相手に合わせて語るようにしています。だから語ることは易しいようで難しいんだよね。
たくさんの民話があって、それぞれの話をその時の聞き手に合わせて話し方を変えるなんてとても大変だ…!ここにも民話を語る難しさと魅力が詰まっているんですね。
語りをする上で大切にしていること・・・
これまでたくさんの語りを経験されてきたかと思いますが、語りをする際に大切にしていることなどがありましたら教えてください!
『聞き手に分かってもらえるように語ること』を大切にしていますね。だから語りそのものは難しくしないで、興味を持ってもらえる語りにすることが重要だと思っています。あとは『楽しく話を聞いてもらうこと』を大切にしています。上手や下手以前に、「相手に分かっていただけるような話をしないといけないな」と思っています。
「聞かせるんじゃなくて聞いていただく」。その気持ちが大切だと思います。
語りのなかで生きる「謙虚さ」。生きていく上でもとても大切なことだと思いますね。
最後に若者へのメッセージを頂きました
若い人が『烏山語りの会』に入ってくることについてはどう思いますか?
年寄りだけだとマンネリ化してしまうから、ぜひ若い人に入っていただき盛り上げていただけたら嬉しいです。お世話になるのはこっちも同じだから。今、根本さん(『烏山語りの会』の若手メンバー)が一生懸命取り組んでくださっていて、少しずつ民話を広めてくださっているので、「いつでも手が必要な時には声をかけてね」って言ってるんです。
私たちにも仕事や家庭がある以上、毎回同じようには活動できない。だからこそ、できる時にできることをやっているんです。なので「仕事が空いてる時だけ出てくる」でもいいと思っています。お互いに人に話をしたり、聞いたりして自分にとって大切なものを見つけていく。そういうことが必要だと思うんだよね。
最初から「私は出来ません」というのではなく、とにかくやってみることが大切であると。やってみないとできるかできないかは分からないからね!
「伝統的なもの」である民話。「伝統」とはいえ、取材の中でその形も時代の流れに合わせて変化していることを垣間見ることができ、ライター小野自身も急激に社会が変化する現代社会では、その時その時に合った形での「文化を受け継いでいくこと」が大切だと実感するいい機会になりました。
また、最後の若者へのメッセージでは「とにかくやってみることが大切」と仰られていましたが、たとえ自分に直接的に興味のないことであったとしても一度経験してみることで、感じること、役に立つことはたくさんあると思いますので、読者のみなさんも時間がたくさんある若い時にこそ、できることにたくさんチャレンジしてみるといいのではないでしょうか。
烏山の民話の語りを聞きたい方へ
『烏山語りの会』による民話語りの披露を以下の日程で行っています。興味のある方は、ぜひ一度足を運んでみてください!🌿 ✨
日時:毎月第3土曜日11:00~11:30
場所:那須烏山市 龍門ふるさと民芸館(龍門の滝のそば)
アクセス:JR烏山線 滝駅から徒歩約10分・駐車場有
その他、YouTube『なすからチャンネル』でも民話語りを、見たり聞いたり出来ます。ぜひ1度ご覧ください!