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障がい者を地域に入れる仕事はクリエイティブで面白い?『アイリブとちぎ』に訊いた、「分断のない社会」をつくるために必要なこと

みなさんは、日常生活のなかで障がいを抱える方と接する機会はありますか?

「学校や職場などで障がい者と関わる機会がある」という方もいらっしゃるかと思います。

けれど、“障がい者と健常者地域社会で当たり前のようにともに暮らす”という風景はまだまだ実現できていないように思えます。

障がい者にとって病院や施設、自宅で過ごすことが多い場合、社会とのつながりや接点がなくなり、社会生活への適応が難しくなってしまうケースがあります。また、“自律”という意味で自信が持てない当事者やご家族の方も多く、障がい者への偏った見方や理解の遅れも見られます。

つまり、「地域社会に障がい者が暮らしていないこと」「障がい者との接点がなく理解が乏しいこと」こそが、障がい者と健常者の分断につながっているのです。

「障がいのある方もない方も、自分らしく暮らし、生きていける当たり前の景色をつくりたい」

そう思い立ち上がったのは、合同会社リビングアーティスト代表の河合 明子(かわあい あきこ)さん

合同会社リビングアーティスト 代表 河合 明子(かわあい あきこ)
1979年生まれ、福岡県北九州市出身。大阪芸術大学芸術計画学科卒業。学生時代に築80年の古民家で共同生活開始。2002年にヒューマンリソシア株式会社入社。2009年に劇団四季(四季株式会社)入団。ライオンキングやマンマ・ミーア!、ウィキッドなどの営業企画に携わる。2018年に合同会社リビングアーティストを設立。2022年に宇都宮大学大学院地域創生学研究科社会デザイン科学専攻コミュニティデザイン学プログラム修了

結婚を機に栃木県に移住した河合さん。「シェアハウスを運営したい」というかねてからの想いと、栃木県の障がい者グループホームの充足率が必要数に対する8%という実情を知ったことが契機となり、「障がいを持っている方々が当たり前のように地域で暮らせる理想のシェアハウスをつくろう!」と2018年に『合同会社リビングアーティスト』を設立。同年11月、高根沢町に知的・精神障がい者向けグループホーム『アイリブとちぎ』を開業しました。

病院・施設・自宅以外の、障がい者の居住の選択肢を増やすべく始まったアイリブとちぎ。自分の人生を自分で形づくるという意味の『人はみな人生のアーティスト』を理念に掲げ、『私が私として、私らしく生きる、暮らす』をコンセプトに、リノベーション物件を中心とした5棟のグループホームの運営を行っています。

現在は、世話人や生活支援員、管理責任者や看護師などのバラエティに富んだ35名の職員とともに、18名もの入居者のサポートを24時間体制で365日行っています(2023年6月時点)。

個性豊かな職員(提供:アイリブとちぎ)

そんなわくわくする取り組みを行う河合さんが本を出版されたとのこと。早速ライター森谷も購入し、昼夜問わずじっくりゆっくり読みました。

「ぶっこんだ?」というコピーについ目が惹かれます…!
サインまでいただいちゃいました♡

口癖や好きなこと、入居のきっかけや生い立ちなど、写真付きで入居者一人ひとりの物語や日常について綴られており、グループホームでの暮らしのなかでぶつかった課題に対してどう支援を行ったのか、どう向き合ったのかという紆余曲折について描かれています。

入居者紹介ページの一部

個人的には、一人ひとりの支援や向き合い方を変えているということに衝撃を受けました。人間はそれぞれ、考えていることや嗜好、行動は全く異なるもの。それこそが生きていることと同義であり、当たり前のこと。だから既存の枠に当てはめることはせず、枠の形を柔軟に変えていくどっしりとした心のゆとりを持ち、個性や主体性を発揮するためのお手伝いをする。

まさに『私が私として、私らしく生きる、暮らす』を体現するために必要な支援なのだなあと感銘を受けました。

入居者の“自律”のため、既存のルールや決定事項を共有するのではなく、入居者全員と一同に顔を合わせともに決める時間を持つということも新しい学びでした。障がいを持っている方と接するとき「支えなければ」という潜在的な意識がどこかにあった私にとって、支えすぎず、自分で考え、自分で意見を言い、自分でできるように促し必要なサポートをするということは、まさに目から鱗。

本に登場する入居者や職員の方は本当に個性豊かですてきに輝いていて、はっとさせられるような新しい気づきが沢山あり、ページを捲る手が止まりませんでした。

本について語っていると止まらなくなってしまうので、一旦この辺で。支援に活かしているOT(作業療法士)のスキルや病院関係者への取材など、専門的な視点や考察も多数記載されているので、気になる方はぜひ手にとってみてください!障がい者支援について興味がある方もそうでない方も、読了後、きっと自分のなかにしっくりくるような学びや芽生えがあるはずです。

河合さんの勢いに押され、急遽グループホームの見学会に!?

読了後、「本を読みました!」と河合さんに感想を添えて連絡したところ、「今日の無料見学会でひと枠空いたから来ない?」と誘っていただき、急遽見学会に参加することに!

予定を確認していると、なんと車で30分ほどの私の住む街まで迎えに来てくださるとのこと。お迎えは流石に遠慮しましたが、本にも書かれていた河合さんのエネルギーとパワーに圧倒された瞬間でした(笑)「思い立ったら吉日!」という思いで集合場所へと急ぎます。

お昼過ぎ、グループホームの事務所『アデーラ』に集合し、河合さんの車に乗り込みます。今回の参加者は、障がいのあるお子さんを持つお母さんと、就労継続支援A型事業所で以前働いていたという男性とそのお母さん。

まずは参加者同士で自己紹介を行います。その後は、個人について深く話を訊く時間に。ゆったりとした雑談は心地よく、すぐに緊張が解れました。

グループホーム事務所『アデーラ』外観(提供:アイリブとちぎ)

そして本日見学させていただくのは、20代の女性の入居が多い1号棟の『アティーナ』、男性が入居する3号棟の『ドック』、40〜50代の女性の入居が多い4号棟の『アクアータ』。各棟に特徴があるようで驚きました。グループホームの訪問自体はじめてなので、なんだか新鮮な気持ち…!

入居者一人ひとりに寄り添った“自分らしく”過ごせる空間

事務所から車を走らせること約10分。早速、1号棟のアティーナに到着!悪天候のためか気分がすぐれない入居者がひとりと看護師さんがいらっしゃったので、さらっと見学していきます(見学会は、入居者が作業所で活動している日中(グループホームにいない時間帯)に行われることが多いそう)。

1号棟『アティーナ』外観(提供:アイリブとちぎ)

リビングルームは大きなテーブルと椅子がある、広々とした空間。生活のサポートを行う世話人やこの場所に集う方との対話を楽しむため、あえてテレビを置いていないのだとか。

壁紙や小物類が愛らしい、やさしい木の温もりを感じる室内(提供:アイリブとちぎ)
「入居者同士の相性を大切に、合わない場合は別の棟に引っ越しすることもある」と言う河合さん
入居者がつくって貼ったという掲示物。「季節感満載でしょ?しょっちゅうリニューアルされてるの!(笑)」(河合さん)
棟のルール説明書や入居者個人の支援書などが壁に貼られています
看護師監修のもと薬を管理する場所

入居者の考えや思いが偏らないよう、世話人・管理責任者・事業所の方・ご家族など、多くの関係者をつくることを大切にしています。入居者のご家族は近所に住んでいることが多いので、朝はお弁当を届けに来られることもありますね。そんな風に外からの出入りがある、地域にひらいた形で支援を行っています

また、支援が偏らないよう、入居者と世話人の関わりを複数の職員が把握できるようにしていたり、複数の世話人がローテーションでサポートするようにしています

その他にも、世話人同士がコミュニケーションを取らずともどこに何があるのか分かるように『整理収納』を大切にしているそう。「食が健康をつくる」という意識のもと、洗剤や食材、調味料にもこだわっています。

こだわりの調味料(提供:アイリブとちぎ)
キッチンの整理収納について説明する河合さん

部屋を見渡していると、入居者とそのご家族、職員とそのご家族とで観劇したというミュージカルのポスターを発見!基本的にグループホームは“住む”場所であり活動の拠点ではないものの、交流を通じて入居者同士や職員との仲を深めてほしいという想いから、誕生日会をはじめ、陶芸体験や旅行、イルミネーション見学やぜんざいパーティなど、毎年数回はみんなで楽しめる時間をつくっているそう

小砂焼に行った際の様子(提供:アイリブとちぎ)

きれいな紫陽花を生けてキッチンに置いたりと、世話人自身もこの場所での仕事を思い思いに楽しんでいるようです。

世話人が生けたというきれいな紫陽花

「障がいを理由にあきらめてほしくない」。入居者も、職員も、相互が心地よい環境に

続いて、4号棟のアクアータに向かいます。

4号棟『アクアータ』外観(提供:アイリブとちぎ)
白を基調とした、清潔感あふれる室内(提供:アイリブとちぎ)

ここでは、入居費用やサポート体制などグループホームについての説明を受け、気になる点や疑問点について深掘りする質疑応答の時間に。

ー門限はあるのでしょうか?

事業所としてのルールは特にありませんが、夕飯の18:30に間に合うように声かけしたり、ひとりだと危ない方については早めに帰宅するように促したりと、個人の状況に応じてルールを設定しています。いつも夜遅くに帰ってくる方がいるとお風呂や洗濯機など順番が決まっているものが乱れてしまうので、みんなが心地よく過ごせるルールを各棟で話し合いながら決めています

ーグループホーム内はとても清潔感がありきれいですね。

各部屋の壁紙の色が違う棟もあるんです。ひとり暮らしするときに「こんなお洒落な部屋にしたい」「こんなインテリア揃えたい」って憧れたり妄想するじゃないですか。それが「障がいがあるからできない」というのは不公平かなと思って

以前見学に来たお母さんは、「グループホームの入居はまだ先だと思ってたんですけど…この部屋が埋まったら嫌なので入居します!」って即決されて(笑)そんな風に「お部屋が気に入ったから入居する」という方もいて、それが本人のモチベーションにもなりますし、「ここに住み続けたいから頑張ろう」と社会性が身につくきっかけにもなると思っています。

ーどのような方が働いているのでしょうか?

日中はケアマネージャーとして働いていて週に1日夜勤に入っている方、病院に勤めながら月に数回働いている方、定年退職後に働いている方など、様々ですね。例えば、ご家族の介護をしながら夜勤に入っている方は「自宅から離れることはいい息抜きになる」と言っていました。そんな風に、それぞれの人生のなかでリフレッシュしたり自分らしく楽しめる場所として活用してほしいです

学生アルバイトも活躍中!(提供:アイリブとちぎ)

途中で入居者の方が帰宅し、「こんにちは」と顔を出してくださいました。「リビングルームに誰かいると必ず来てくれるんです」と微笑む河合さん。「ただいま」「おかえり」が響き合うほっこりする日常風景は、本当の家族のようでいいなあ。

「自分たちのことは、自分たちで決める」。入居者の“納得感”を大切に自律を育む

最後に、3号棟のドックに向かいます。道中、車内で『のぶおばんど』さんの『住めば都の高根沢』というご当地ソングを聞きながら、リズムに合わせて身体を揺らします。はじめましての方と車内で身を寄せ合って、仕事のことや日々のことなど、他愛のない話をする。個人的にこの時間がとても癒されました…!

ゆるく雑談しているうちに、あっという間にドックに到着。訪問時に入居者がリビングルームにいらっしゃったので、河合さんが声かけを行います。

3号棟『ドック』外観(提供:アイリブとちぎ)
大きな窓から光が差し込む、広々とした快適な室内(提供:アイリブとちぎ)

キッチンの戸棚には、ファイリングされた支援計画や業務マニュアルが置かれていました。「この世話人は身の回りのことをやってくれる」と世話人によって態度を変えたり甘えてしまう入居者もいるため、「〇〇さんは自分でできる」「〇〇さんは支援が必要」など、入居者個人の状況の把握と記載、共有を職員間でしっかりと行っているのだとか。

こちらの棟も調味料などの整理収納がされており、冷蔵庫のなかには入居者の名前が書かれたボックスが格納されていました。自分の名前が書かれているボックスに購入した食品や飲み物などを入れ、自己管理しているそうです。

整理収納された調味料

また、トラブルを未然に防ぐため、ご飯や団欒の際に座る席順や台所・お風呂・洗濯機を使用する順番は、入居時に全員で話し合って決めているそう。

席順が書かれた紙(名前は仮名)

私たちがルールや決定事項を提示するのではなく、各々の入居者が抱えている課題について毎月みんなで話し合う。そんな風に『自分たちのルールは自分たちで決める』ことと、入居者の『納得感』を大切にしています

結論が出なくても不安やもやもやを吐き出せる場があるとすっきりするし、「もっとこうしたらいいんじゃないか」という解決案が出るかもしれない。世話人の考え方も一人ひとり違うので、棟ごとの世話人ミーティングも毎月行うようにしています

自分たちのことは自分たちで話し合って決めているんですね。自宅でのびのび過ごしている息子は協調性がないので、みんなで一緒に暮らすのはちょっと難しそう…

そういった心配をされるご家族の方も多いんですが、協調性は大方あるので大丈夫です!お母さんのもとにいるからそうしているだけで、来てみたら「やれるやんけ〜!」っていうことはすっごくあります

例えば、「電気のスイッチが押せないんです」と言われていた方が半日でできるようになったり、強度行動障がいの方が劇場でじっと観劇できたり。親元で自律することって、実はかなり難しいんです。私も実家に帰ったらめちゃくちゃわがままですからね(笑)

なるほど。身の回りのお世話をしてくれる親のそばにいると、できることもできなくなってしまうのか…私も実家にいると自律とは程遠く、甘えちゃうことが多いかも(苦笑)

そうですよね。本人に「ここで暮らしたい」という想いがあれば成長しますが、「押しつけられている」と感じると自宅に帰りたいがゆえに空気の読めない行動やちょっと悪い行動をとることも。でもそれはほとんどがアピールで、「本当はできる」というケースが多いんです。

“自律”のために必要な支援は行いますが、親元のような甘えはさせない。そのことは強く意識していますね。

愛情を注ぐ親の役割と、自律を育むアイリブとちぎの役割。親御さんにとっては心配が募るなか、信頼関係のもと「託してください」という気持ちで大切なお子さんをお預かりする。『親が子どもを手放す』ということも、本人にとって、またそのご家族にとって大切な支援なのだと考えさせられました。

また、障がい者の自律支援にとどまらず、「親御さんの人生も大切にしてほしい」と河合さんは言っていました。

大切な我が子を手放すことで子どもに新しい人生の選択肢を提示でき、親御さんにとっても自分の時間が持てるようになる。障がい者の自律を育むグループホームは、双方良しの仕組みだなあと妙にしっくりきました。

『入居者の自分らしさ』だけでなく『職員の自己中を叶える経営』にも重きを

グループホームの見学終了後、集合場所のアデーラに戻り、今日の感想を共有します。実際に障がい者が暮らしているグループホームに足を運び話を訊くことで、文字だけの情報では分からないリアルな空気感に触れることができ、居住のイメージが具体的にすとんと入ってきました。参加された方も、「本当に一人ひとりに向き合っているんだなと感激しました」と驚きながら語っていました。

また、河合さんの言葉の節々からは、入居者はもちろん、働いている職員一人ひとりの個性や人生も大切にしていることが伺えました。

そこで、障がいの有無に関わらず『すべての人の自分さしさ』を願う河合さんに、少しお話を訊いてみることに。

「やりたい」を引き出すマネジメントが究極だと思っているんです。そこに収益性が伴って仕事になったら、最高じゃない?職場は自己実現をする場でもなければボランティアでもないけど、あえて『職員の自己中を叶える経営』がしたくて

副業OKなので、シフトの調整に協力しつつ各々好きなことができるように。みんなのやりたいを応援し合うという風土はできていますね。

求人サイトより

自分の時間もしっかり持てるような環境になっているんですね。無資格・未経験の方も働いているとのことですが、どのようにサポートしているのでしょうか?

「ものを壊した!どう対応したらいいの?」「排泄してしまったけどどうしよう…」「手を噛んでるのは止めさせるべき?」など、知識や経験がないと何も分かりませんよね。

そういった困りごとのサポートをLINEを使って24時間体制で行っています。世話人にとっては、「聞けばすぐ答えてもらえる」という安心感のもと仕事を行うことができています。

職員のサポート体制について話す河合さん

24時間体制で!夜勤中でも相談できるのはすごく助かりますね。

職員の全体グループ、各棟のグループ、管理責任者と各世話人のグループといった複数のLINEグループがあり、他の世話人には言いにくい悩みや不満をダイレクトに受け止める仕組みづくりにもこだわっているんですよ

分断のない、本当の意味での“健全”な社会をつくりたい

夜勤という大変な仕事にわざわざ応募してくださった方のなかには、それなりの事情がある方もいると思うんです。その35名の職員にできる限り心地よい職場を提供し、生活できるだけの給与を払って、安心して働き続けることができる環境を整えているということは、めちゃくちゃ社会にいいことしてるんじゃないかなと思うんですよね(笑)

入居者にとっては『地域での暮らし』という新しい挑戦が支えられ、職員にとっては障がい者との出会いを通じて新しい気づきが芽生え自己実現につながったり、不安や葛藤のなかで新しいライフスタイルを確立し成長していく。この“持ちつ持たれつのコミュニティ”は本当に面白いなあと思っています。

人と接する仕事なのでストレスを感じないわけがないけど、それこそが“健全”だと思うんです。

入居者と大学のゼミ生の交流の様子(提供:アイリブとちぎ)

健全というと?

似通った思考・価値観の人だけで構成されている社会って、ある種とても不健全で。急に怒鳴り出す人がいたり非常識な行動を取る人がいたりなど常に安心できるわけじゃないけど、様々な人が暮らしている社会こそ健全だと思っています

私は障がい者と健常者が分断された社会で生きてきたので、病院や施設に閉じ込められていた障がいを抱える人たちに出会ったとき、「本来同じ場所にいるべきはずなのにこんなところにいたのね!ごめんなさい〜!」という気持ちになったんです。

入居者と河合さん(提供:アイリブとちぎ)

ストレスや不安を感じることもあるけど、それこそが多様性に満ちた社会なのかあ…一人ひとりの個性を尊重し様々な人が当たり前のように暮らす分断のない社会は、本当にここから実現しそうな気がしています。

障がいの有無に関わらず、苦しんでいる方は沢山います。障がい者にとって社会がつくった枠組みのなかで生きることは苦しいかもしれないけど、枠組み自体を壊してしまえば意外と生きていけることも多いんです。

それに、将来的に国の制度が使えないとなった場合、地域で障がい者を支える必要が出てきます。そのときに「会ったことも話したこともありません」「ちょっと苦手です」という方が支えられるわけがないんですよね。なので、制度が使える今のうちに障がい者を地域に入れて、苦手意識を抱いている方とどんどん引き合わせています。「ほら、全然平気やんけ〜!」と(笑)

“障がい者と健常者が当たり前のように一緒に暮らす”という景色の実現に向けた第一歩というわけですね。最後に、河合さんのこれからについて教えてください!

「グループホームに入居したら自由な時間がなくなってしまうのではないか」と心配されるご家族の方も多いのですが、「そりゃ、実家のような自由はないよ。それでも多少は子どもに窮屈な思いをさせたら?」って思うんです。

二十歳になったら家を出るということが当たり前の社会になったらいいなと思いつつ、親御さんは親御さんなりにとても苦労されてきたので「自分が守らないと」という意識が強いんです。その気持ちも分かりますが、今は色々な選択肢が増えている時代なので親御さんだけが子どもを抱え込む必要はないんじゃないかなと。そういった啓発活動を行いたいと思っています。

それと、空き家が好きでコワーキングスペースやシェアハウスの運営も行っているので、地域の風景や空き家の概念を変える活動をしたいと思っています

令和2(2020)年度に受賞した『キラリと光るとちぎの企業表彰』

「目玉が飛び出るような非常識と日々出会える、ツッコミどころ満載の仕事です。いくらでもやりようがあって、クリエイティブでとにかく面白い。閉鎖的な業界なのでより質の高いものをつくり発信し、多くの方にこの仕事の魅力を伝えたいと思っています」

そう語る河合さん自身、知的・精神障がい者向けのグループホームをはじめるまでは、見たことも触れたこともない未知の業界でした。

ただ、取材のなかで「〇〇さんにもらった手紙があるの」「〇〇さんが話したくて仕方なくてうろうろしてる」と終始楽しそうな河合さんを見て、この仕事のかけがえのない煌めきが伝わってきました。

「障がい者の幻覚や幻聴、妄想は、『仕事に行きたくない気持ちが悪魔として現れる』など、しっかりとしたリアルな世界と紐づいていることが多い。それは、生きる価値や人生の豊かさ、本来あるべき姿を私たちには見えない生き方として示してくれているのかなと思うんです。日々、見失っているものに気づかされています」

そう語る河合さんの言葉の通り、私たちが障がい者を支えているのではなく、障がい者の感性や知性、素直な言葉や感情表現に心揺さぶられ、支えられ、新しい視点をもらうことで私たちの方が生きる活力をいただいていることが実は多いのではないでしょうか。

個性が輝く入居者(提供:アイリブとちぎ)

障がい者を地域に入れることで、当事者はもちろん、職員や地域に暮らす方、生きづらさを抱えている方が新しい生き方や働き方、価値観に出会うきっかけとなり、“個性を認め合い自分らしく生きる”というヒントを得ることにもなりえるでしょう。

障がいの有無に関わらず、“すべての人の自分らしさ”を大切に活動を行うアイリブとちぎ。高根沢町をモデル地域に、障がい者も健常者も、多様な人が当たり前のように一緒に暮らしている景色が広がっていくのは、そう遠くない未来かもしれません。