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なにもないからこそ、面白いひとがたくさんいる! 関係人口創出ツアー『下野市の“ひと”と出会う旅』に参加してみた
みなさん、栃木県にある下野市という市をご存知でしょうか?
それぞれに深い歴史を持った石橋・国分寺・南河内の3つの町が合併して生まれた下野市。栃木県最小の面積の市ながら3つの駅があり、東京まで電車で約90分と利便性も抜群 ◎
さらに、下野市はかんぴょうの生産が日本一!なんと全国生産の46%を下野市が占めているそう。人口一人あたりの医師数が全国一位かつ高校生(18歳)までの医療費が無料など、安心安全で子育てがしやすいまちとしても知られています。
そんな特徴あふれる下野市で、『下野市の“ひと”と出会う旅』というモニターツアーが開催されるという噂を聞きつけ、ライターの森谷が参加してきました!ツアーは1泊2日でじっくりと回ります。
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私自身、就職を機にUターンしてきた身でありながらも栃木県で活躍する様々な人と交流する機会が中々取れていなかったので、「下野市にはどんな人がいるんだろう…?」とわくわくと不安が半々。
下野市ではどのような“ひと”がどのような取り組みを行っているのか…。早速、レポートしていきます!
【1日目】下野市の食・風景・人に触れる
11:00 石橋駅
まずは参加者と落ち合います。今回の参加者は、各地から集ったクリエイター。映像クリエイターや漫画家、ライターやイラストレーターなど、多様な職歴を持つ方々が集まりました。ツアーに参加して得たアイデアや学び、素直に感じたことをそれぞれの得意分野で発揮してもらいます。
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駅を抜け、『グリム通り』と呼ばれる小さな商店街通りを散策。「どうしてグリム通り…?」と思った方もいるかと思いますが、実は下野市はドイツのディーツヘルツタールと姉妹都市の提携を結んでいるのです。まちなかの街頭やマンホールなどもグリム童話をモチーフにつくられていて可愛らしいので、ぜひ探してみて下さい ◎
11:15 石橋公民館
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歩くこと約10分。石橋公民館に到着!ツアーや下野市についての説明を受け、参加者同士の自己紹介を終えた後は、お待ちかねの昼食タイム。
いただいたのは、県内外から多くの人が訪れる老舗割烹料理店『大衆割烹 安兵衛』の穴子天重。肉厚でふわふわな穴子が甘いタレと相性抜群。ご飯にもタレが染み込み、旨味が口いっぱいに広がります。
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大衆割烹 安兵衛について
住 所 | 〒329-0511 栃木県下野市石橋295 |
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電 話 | 0285-53-0119 |
営業時間 | 昼 /11:00〜13:30夜 /16:30〜22:00 |
休業日 | 日曜日(宴会等のご予約はご相談下さい) |
交通アクセス | JR石橋駅から徒歩5分 |
駐車場 | 有り20台 |
席 数 | 90席 |
予 算 | 昼 950円〜 |
13:30 にぎわい広場実験室
地元メシでお腹が満たされた後は、下野市とかかわるきっかけづくりを行う『シモツケ大学』が取り組む『にぎわい広場実験室(通称:にぎラボ)』の企画に参加します。案内してくれたのは、下野市地域おこし協力隊の鈴木 祐磨(すずき ゆうま)さん。昨年度下野市に移住してきたという鈴木さんは、下野市の魅力を県内外の多くの人に届けるため、主に公民連携による地域の賑わいづくりを行っています。
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2021年10月より始まった『にぎラボ』とは、春にオープンしたばかりの石橋にぎわい広場を活用し、自分たちの手でまちを面白くしていく活動です。ワークスペースを設置したりベンチのDIYを行ったりランタンイルミネーションを行ったりと、広場を活用しまちと人とをつなげています。
今回参加するのは、『コタツで振る舞う』という企画。広場にコタツを設置し、地域の人との交流を楽しみます。
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「広場でコタツ!?」「すごい寒そう!」と一瞬思ってしまったのですが、これが想像以上によかった…!澄み切った空の下、みんなで一つの卓に腰掛け、談笑する。通りすがりの人が仕事を始めたり蜜柑のおすそ分けをくれたりと、思いがけない出会いもありました。
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話も盛り上がり身体はポカポカ。思った以上にぬくぬくとしてしまいました。あえて欠点を一つあげるとするなら、心地よすぎて出られなくなる、ということですね…!みなさん、参加する際には十分お気をつけください(笑)
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17:00 吉田村ビレッジ
陽も傾き始めた頃、吉田地区に車で移動。到着したのは『吉田村ビレッジ』。この場所が本日の宿泊場所です。
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吉田村ビレッジとは、遊ぶ・食べる・泊まるを叶える複合施設。いちごやアスパラ、玉ねぎなどの作物に触れる農業体験や、地元の食材をふんだんに使ったイタリアン料理やベーカリーが楽しめるほか、ハンドメイド雑貨や花木、とれたて野菜等の販売も行っています。
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実は当メディアで以前取材させていただいたのですが、宿泊は今回が初…!とっても楽しみです。
吉田村ビレッジを探索した後、市の職員さんに連れられてやってきたのは、広大な田圃。目を向けると、傾いたオレンジ色の陽がまち全体を染め上げていました。陽が沈み、夜のはじまりを知らせる空のゆらめきにしばし見惚れます。窓を開け、毎日こんなに素敵な景色が見れたらどんなに幸福度が高いことか…。街頭などの人工的な建造物がないからこそ楽しめる田舎ならではの原風景は、見ているだけで心が癒やされますね。
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18:00 L’ape Ronza(ラーペロンツァ)
きれいな夕陽に別れを告げ、続いて向かったのはイタリアンカフェ・バール『L’ape Ronza(ラーペロンツァ)』。吉田村ビレッジの敷地内にあり、ここでは地元の食材をふんだんに使った本格的なイタリアン料理が楽しめます。
のどかな田舎にぽつりと佇む、どこか懐かしさを感じる空間。誕生日や記念日などの特別な日はもちろん、“心と身体にいいもの”が食べたいときに少し足を伸ばしてでも訪れたい場所。人気店のため、事前に予約を取ることをおすすめします ♩
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19:30 ナイトセッション
新鮮な野菜やこだわりのデザート、熱々のパスタを堪能した後は、本日最後のプログラム『ナイトセッション』へ。お話を聞かせてくださるのは、吉田村ビレッジを運営する『一般社団法人シモツケクリエイティブ』代表理事・『AMPworks 一級建築士事務所』の山口 貴明(やまぐち たかあき)さんと、『吉田村ビレッジ』村長(総支配人)・『有限会社伊澤いちご園』代表取締役・イタリアンカフェ・バール『L’ape Ronza(ラーペロンツァ)』 オーナーの伊澤 敦彦(いざわ あつひこ)さん。
まずは伊澤さんから、吉田地区における農泊1・アグリツーリズム2事業『吉田村プロジェクト』に関するお話を伺います。
「かつてはなにもない吉田地区が大嫌いで仕方なかった」という伊澤さんは、都内に出てアートディレクターとして活躍した後、家業を継ぐために29歳でUターン。その後、観光協会や銀行、市役所や自治会をメンバーに据えた『吉田村アグリツーリズム推進協議会』を立ち上げました。
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「なにもない」ゆえに「何をフィーチャーしてどうしていきたいか」が難しい吉田地区。その中でも、石蔵や農業、風景や歴史などに目を向け、それらの地域資源を最大限に活用し、地域の未来を創造するために『吉田村ビレッジ』を設立しました。
ずっと気になっていたのですが、吉田村ビレッジに足を踏み入れた途端、ふわっといい匂いが香るんです。それはどうしてか聞いてみると、「旅の記憶を大切にしたいから」とのこと。なんでも、“田舎ならではの懐かしさ”を感じてもらうため、RETRIP[リトリップ]とコラボしてオリジナルブレンドのアロマスプレー(非売品)を制作したそう。
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出典:RETRIP[リトリップ]
吉田村ビレッジには「みんなの実家でありたい」という願いが込められており、“田舎の実家に帰った”というイメージを香りで表現しているのです。アロマスプレーのイメージは、夏休みにカブトムシを取りに行く途中の爽やかな香り。「わ、いい匂い〜!」と思った香りが、まさかそんなイメージでつくられていたとは…!細かな仕掛けもとてもわくわくしますね。
さらに、鬼怒川の沖積平野に位置する吉田地区は土質の関係から玉ねぎが隠れた産地だそうで、吉田村ビレッジの目の前にはなんと玉ねぎ専用の集荷場もあるそう…!
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宿泊者限定で着ることができます ♩
「『まちづくりをしたい』という気持ちのもと村をつくったわけではなく、妻や子どもたちに『ここに住んでてよかった』と思ってもらうために活動し続けている」というお話がとくに印象的でした。
自分の理想の暮らしを、自らの手でつくる。まさに有言実行の生き方をされている自由な大人のカッコよさが熱く伝わってきたところで、続いて山口さんにお話を伺います。
山口さんは「スキルを活かして居場所をつくっていきたい」という想いのもと、地元である下野市で活躍しています。地元で活動を行っている理由は、“つくる”仕事をしているから。背景や情報を深く知っている地元でクリエイティブに活動することは、仕事をする上でとてもメリットが大きいのです。
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さらに、「仲間を集うためには課題を希望に変換することが大切」だと語ります。例えば、「公園に人が来ない」という課題を「公園で遊ぼう」という希望に変換し行われたのが、気軽にピクニックが楽しめる『10 picnic tables』。地域で発生している課題を理想に変換し、仲間を集って理想に向かって協働する。最後の最後に残るのは、やはり好奇心やモチベーションになってくるそう。
とくに印象的だったのが、「まちがあったから人が住んだわけではなく、人が住んだからまちになった」という言葉。
「人口も経済も縮小していくこれからの時代、我慢を強いられたり寂しい思いをするような地域にはしたくない。みんなの幸せをどう叶えていくかということを創造していく必要があると思っている」と山口さんは語ってくださいました。
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伊澤さんも山口さんも、「好きな暮らし(地域)をつくる」という点で目指す先が似ていると改めて感じました。自分の好きを突き詰めて生きている大人はやっぱり格好いい…!
たった1日とは思えないほど濃密な時間を過ごし、アクティブに活動する人や美しい原風景、新鮮なご飯などがある下野市のことがとても好きになりました。はじめに感じていた「下野市ってなにがあるんだろう…?」という不安はどこかに消え、初日の夜に残ったのは「もっと下野市について知りたい」という高揚感。明日も様々な人や風景に出会えると思うと、とっても楽しみです。
【2日目】農産物や歴史からみる暮らしのあり方
8:00 朝食
ふかふかのベットで気持ち良く目を覚ましました。寝過ごすか不安だったけれどなんとか間に合った…とほっと一息。待ちに待った朝食タイムです。
素敵な1日は素敵な朝ごはんからという言葉の通り、待っていたのは吉田村ビレッジの1階に入っている名店『THE STANDARD BAKERS』の焼きたてのパンたち。
チーズたっぷりのパンに濃厚なたまごサンドイッチ、とちおとめを使った自家製ジャムが練りこまれたパンといった3種のラインナップ。素敵な朝にほっこりします。
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9:30 参加プログラム
美味しいパンでお腹が満たされた後は、『伊澤いちご園』でいちごの収穫を体験します。
ビニールハウスの室内は、羽織っていた薄手のコートが要らないくらいに暖かい…!
実を上に向けてヘタの部分を下にし、そのままそっと引っ張るといういちご摘みのコツを伊澤さん実演のもと教えていただいた後は、実際に体験してみます。
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赤く熟したいちごをそっと摘んでいきます。仕事となるととても速いスピードでいちごを見分け、収穫していかなければならないので難しそう。摘んだいちごはその場で味わうこともできちゃいます。みずみずしく、身体に染み渡る優しい甘さに癒やされます。
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いちごを摘んだ後は、店頭に並べるために大切なパック詰めを行います。パックの角にいちごの先端が来ないようにずらして配置していきます。なんでも、パックの角でいちごが擦れてしまうと傷みやすくなってしまうそう。この作業は結構難しく、慣れている方でも2分程度かかってしまうとのこと。
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パック詰め完了後は、オリジナルの容器に入れてお持ち帰り。旅の素敵なお土産ができて大満足です ◎
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最後に、日々美味しいいちごを作り届けてくれるすべての生産者さんに感謝の言葉を告げ、いちご園を後にします。楽しく体験するだけでなく、『生産者さんが日頃行っている作業を体験し感謝の気持ちを伝える』というプログラムは、農作物へのありがたみを実感する大切な機会になります。毎日の食卓を彩ってくれる作物やいのちは、様々な人の愛情と努力のもとで成り立っており、実は当たり前ではないもの。生産者さんやいのちへの感謝の気持ちは、いつまで経っても忘れないようにしたいものですね。
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続いて向かったのは、お米や麦、茄子やほうれん草、椎茸を作っている上野 将(うえの まさし)さんの椎茸栽培の現場。
祖父の代から続く農家の3代目だという上野さんは、なんとまだ27歳!現在は家族4人で農業を営んでいるとのこと(今年法人化予定)。実際に椎茸を育てているハウスにお邪魔させていただくことに。
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たくさんの小袋に入った椎茸が!ここでは1万1千菌床もの椎茸を栽培しているとのこと。驚くことに、椎茸は雷などの衝撃が与えられると一斉に生えてくるそう。刺激が収穫量に影響を与えるなんて、全く知りませんでした。椎茸は極端な暑さと極端な寒さに弱いそうで、夏場は水をかけ冷やしたりと適度な温度を保てるように工夫しているのだとか。手間ひまかけられて育った椎茸は、肉厚でとても美味しそう…!
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さらに、人手不足や負担軽減のため、スマート農業3を導入しているそう。
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コスト削減や負担軽減、効率が良くなるなどの利点があるため導入を決めたそうで、GPS付きの田植え機も導入しているのだとか!こういった機器が普及することで農業にかかわる負担が減り、農業という職種が身近な時代になっていくかもしれませんね。
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農家さんのリアルなお話が聞けたところで、『道の駅しもつけ』に寄り道。ここでは、限定酒『下野の国五千石』や『かんぴょうパウンドケーキ』などのオリジナル商品が購入できるほか、伊澤いちご園のジェラート専門店『GELATERIA(ジェラテリア)伊澤いちご園』で新鮮なジェラートを味わうこともできちゃいます ◎
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11:30 天平の丘公園
休憩やお土産購入にぴったりな『道の駅しもつけ』を楽しんだ後は、『天平の丘公園』の『10 picnic tables』で昼食タイム。日替わりのテンピク弁当はピクニック仕様で、白米の上に唐揚げがトッピングされていたりと、ちょっぴりわくわくする仕掛けも ◎ 晴れた日に公園でランチすると、リフレッシュできていいかもしれませんね!
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13:30 参加プログラム
ピクニック気分を味わった後は、続いてのプログラムへ。
下野市で幼稚園~小学生を対象に、学校教育では体験できない専門的な実験を行っている理科教室『シモツケラボ』代表の宮内 恭兵(みやうち きょうへい)さんにお話を伺います。
下野市出身の宮内さんは、バイオテクノロジー研究員、食品会社研究開発、塾講師、プロ家庭教師、中高一貫校学校教師(理科)を経て、2019年2月に理科実験教室 シモツケラボを立ち上げました。
「言われたことに忠実に決められた答えに向かって集団で一斉に勉強する」というこれまでの学校教育に違和感を抱き、同時に「自由に生きる力=自分なりの問いに自分なりの方法で自分なりの答えを見つけることこそが身になる」と考えた宮内さんは、その力を育むためにうってつけの理科実験教室を始めることに。
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実験を通して、「失敗しても楽しい」「もう一度挑戦しよう」という力を育み、成功体験を感動につなげ、それらの経験が成長につながる。好奇心に火をつけ、自らの手を動かし考えさせるということがこれからの教育には大切なのだと学ぶことができました。
幼児から小学生まで楽しく学べる理科実験教室 シモツケラボ。最大10名の少人数制での授業で、お子さん一人ひとりと向き合い、自ら考える力を育てます。体験授業も開催中ですので、気になった方はぜひ足を運んでみて下さい🌱
最後に、下野市の歴史をたどるため、『しもつけ風土記の丘資料館』へ。
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しもつけ風土記の丘資料館では、古墳から出土した全国でも例のない機織形埴輪のほか、馬形埴輪と人物埴輪を展示しています。さらに、下野市周辺の古墳も。
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下野市には、下野薬師寺・下野国分寺・国分尼寺などの寺院の史跡があり、古墳が多く造られるなど、数多くの文化財が残されています。古墳時代から奈良時代までの歴史の変遷をたどることができるので、興味がある方はぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。お子さんでもわかりやすいよう、解説パネルや映像で気軽に歴史に触れることができますよ ◎
旅の終わりに
以上で、2日間のツアーは終了となります。
下野市の風景や食、歴史など、暮らしを形づくる様々なものに出会うことができました。なにより、下野市で活躍する人たちの価値観や想いに触れて、熱く面白い人が本当にたくさんいる!と純粋に驚きました。まさにまちを大きく動かすパワーがある人がたくさんいる場所なんだな、と。「どうしてこんなに多くの素敵な人が下野市に集まっているんだろう…」と疑問が湧く余地もなく、2日間下野市で過ごす中で目にした、当たり前のようにある豊かな自然や新鮮な食材を思うと必然のことだと感じざるを得ません。
「なにもない」からこそ、持っているスキルを活かして「自分だからできること」に挑戦でき、可能性の拓けた場所になる。自分ができることを通して地域を面白く、豊かにする人の背中はとても輝いて見えました。同時に、「新しいことに挑戦してみたい」「スキルを活かして自分の好きな暮らしをつくりたい」という方にはうってつけのまちだと感じました。
下野市は観光地としては選ばれにくい場所ですが、沈みゆく夕陽や広大な田畑などの原風景、生産者の愛情が詰まった作物、好きをベースに日々挑戦する人々の姿があります。人口の増加率が県内で一番上がっている下野市は、今後間違いなく注目されていくまちになっていくと確信しました。
食や宿泊、景色や人など、関わるきっかけはどんなことでも。みなさん、ぜひ一度下野市に足を運んでみてください!そして、今回ご紹介した下野市にいる素敵な人たちとつながっていただけたら嬉しいです ◎