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自分が暮らす地域の課題と向き合うということ。みんなで豊かな地域をつくるプラットフォーム『とちぎデジタルハブ』とは?

「野鳥の糞害や水産被害に困っている」「車椅子で気軽に入れるお店が知りたい」「紙の回覧板がめんどくさい」「観光地である日光の渋滞を減らしたい」。

これらは、地域で暮らす中で感じた課題や困りごとの解決を目指すプラットフォーム、とちぎデジタルハブ(デジハブ)』に寄せられた声です。

“自分ごと”、いわゆる当事者として考えにくい課題もありますが、実は生活に欠かせないものや思わず頷きたくなるような投稿がたくさん。「同じような想いを持ってた」「私も困ってた」と多くの人の共感を生み、プロジェクト化した事例もいくつかあります。

宇都宮市内のポイ捨てゴミの写真。この後、ポイ捨てゴミを削減するプロジェクトを実施

他人任せにするのではなく、自分たちで心地よい地域をつくっていく。

そのためにまずは同じような地域に暮らす人がどんなことに困っているのか知ること、自分が力になれそうなことはあるかどうかを小さくからでも考えてみることが大切です。とはいえ、いきなり“地域課題に目を向け自分ごととして考える”というのは中々難しいですよね。

そこで今回、『とちぎデジタルハブ』の運営メンバーにサイトの利用方法や地域課題の解決事例、解決に導くための手法など、様々なお話を伺いました。

今回お話を伺ったのは…

NPO法人とちぎユースサポーターズネットワーク 代表理事 岩井 俊宗(いわい としむね)さん(左)、株式会社セレクティ 部長 赤羽 敦史(あかば あつふみ)さん(中央)、栃木県 総合政策部 デジタル戦略課 井上 大助(いのうえ だいすけ)さん(右)

様々な地域課題を可視化し、みんなで解決を目指す『とちぎデジタルハブ』って?

『とちぎデジタルハブ』には、運営を担う栃木県 総合政策部 デジタル戦略課を筆頭に、NPO法人や民間企業など、様々な専門家がコーディネーターや技術支援者として関わっています

プロジェクトの開発支援を行う岩井さんと技術検証を行う赤羽さんは、新規課題の掘り起こしを行ったり課題解決に向けた動きを支えたりと、課題の収集・共有から解決に至るまですべての工程で支援を行います。また、“まずはサイトを知ってもらう”ための広報支援も同時に行います。

「様々な職種の方と連携することで地域をみんなで盛り上げる効果が生まれる」と語る井上さん

少子高齢化が加速し生産年齢人口がどんどん減少する中で、「今の生活や地域を維持するためにはどうすればいいんだろう」という地域の大きな課題の解決方法を県のデジタル戦略室(現在:デジタル戦略課)で考えた時、「急速に進展するデジタル技術を活用しよう」というアイデアが出ました。そこで、全県的なデジタル化の指針となる『とちぎデジタル戦略』を令和3年3月に策定しました。

『とちぎデジタル戦略』では、①デジタルで課題を解決する場をつくる②安全・安心に使える環境をつくる③デジタル人材を育成する④行政も率先してデジタル技術を活用するという4つの柱を掲げ、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する『Society 5.0(ソサエティ5.0)』を目指しています。

このうち、第1の柱である「デジタルで課題を解決する場をつくる」は、県民にとってデジタル技術がもっと身近なものにならないと先に進めないと考え、“デジタル技術を活用して身近な地域課題について話し合いながらみんなで解決していく仕組み”をつくろうとしたものです。これが『とちぎデジタルハブ』であり、令和3年10月にWEBサイトが開設されました。

『とちぎデジタルハブ』の利用方法はとても簡単。まずはサイトにアクセスし会員登録(無料)を行います。登録完了後は、自分が感じている課題を投稿したり他のユーザーが投稿した課題にコメントをつけることができます。課題の投稿に抵抗感がある方向けに、会員登録不要で相談できる窓口や事務局が代わって投稿を行う“代理投稿機能もあります

悩みを抱える方に代わり事務局が代理投稿したもの

また、サイト内で解決策を出し合い模索するだけでなく、メンバーを募って“プロジェクト化”することもできます。プロジェクトの立ち上げ申請やメンバーへの立候補に加え、様々な方と意見交換を行う『課題深掘り会』への参加など、状況に応じて実動的に関わることも可能です。

投稿された課題から実際にプロジェクト化されたもの

登録者は331人、コメント数は432件、投稿された課題は43件、そこから生まれたプロジェクトは15件(2024年1月時点)。県内の登録者が7割・県外の登録者が3割と、県内外問わず様々な方がサイトを利用しています。

※ 匿名でご利用いただけます
※ サイトの閲覧には会員登録は不要です(一部会員登録が必要なもの有)

課題解決の鍵は“課題の本質”を知ること

地域課題をいかに“自分ごと”として捉えてもらうかが大切だと思っています。「デジタル技術を使ってみんなで課題を解決する」。そのための話し合いを通じて自分ごととして考え、「困っていたことがデジタル技術を使うことでこんなに楽になるんだ」と実感することで口コミで広がっていく。そんなふうに“みんなで住みよい地域をつくるための一つの手段”として利用してほしいです。

デジタル技術はユーザーを置き去りにしたままどんどん進歩しちゃうんです。そこで私たちが「この内容には技術が合ってるよ」「この技術はこう使うんだよ」と分かりやすく伝え、地域に暮らす人とデジタル技術をつないでいます。

スマートフォンを自由に使いこなせる人は発売当初に比べて増えましたよね。機能的に大きな変化はないけど、浸透したことによって豊かな社会になったんです。デジハブは、そんな“誰でもデジタル技術を使いこなせる社会”を目指しています。

デジタル技術を使いこなせる人だけが地域課題に立ち向かうんじゃなくて、もっと栃木県全体として課題解決意識を高めたいし、地域課題を身近なものとして捉えてほしい。デジタル技術の可能性を実感できる人が増えたら、新しい解決策がたくさん生まれると思っています。

ただ、「あなたが感じる地域課題はなんですか?」と聞かれるとパッと思い浮かばない。何かしら不満に感じていることはあるはずなのに、「どんなものを課題として投稿したらいいのか分からない」という人は少なくなかったんです。

そこで、まずは見えない課題を掘り起こし、“投稿することの心理的ハードル”を突破させる必要があると考えました。

それらの課題はどう乗り越えたのでしょうか?

相談窓口から困りごとを募集してオンラインで話を聞きました。話をしていくうちに、“課題の本質”にたどり着くんです。その人が口にした言葉じゃなくて裏側にある想いっていうんですかね…本当の意味での解決につながるので、“課題の掘り起こし”はすごく大切な気がしています。

課題の本質、ですか?

例えば、以前「紙の回覧板がめんどくさい」という相談がありました。でも単に「回覧板をデジタル化すればいい」と考えるのではなく、「回覧板ってなんのためにあるんだろう」と考えた時、地域の情報を共有するほかに“回覧板を渡す行為を通じて地域の人とのつながりや会話のきっかけをつくる役割がある”ということに気づいたんです。そこで「“地域のつながりをどうつくるか”というところにデジタル技術を使う方が重要なのでは?」という話になって。

相談を受け、実際に事務局が代理投稿したもの

デジタル化することでいいところが消えてしまうのは本末転倒なので、“回覧板が持つ本当の役割”といういいところを残すためによく話し合わないといけない。そうした課題の本質にたどり着くプロセスに一番時間をかけています

そのためにも相談窓口での話し合いのほかに、様々な立場の方と意見交換を行う『課題深掘り会』を実施しています。

課題投稿者をゲストとして迎え意見交換を行う『課題深掘り会』の様子

「公園の雑草をなんとかしたい」という課題が投稿された時は、「コンクリートで舗装して雑草が生えない対策をすればいい」というコメントが寄せられました。でもいざ『課題深掘り会』を行ってみると、「抜いた雑草を燃料として販売できるんじゃないか」というアイデアが出たんです。自分には全くないアイデアで、“雑草が宝物になる”というビジネスモデルになりうる解決策があるのか、と目から鱗でしたね。

視点や発想が変わって面白い…!様々な方と直接意見交換できる『課題深掘り会』だからこそ生まれたアイデアですね。

そうですね。「コンクリートで舗装すれば雑草は生えにくくなるけど公園のよさがなくなっちゃうね」という話をしていたところ、新しい視点をいただけて嬉しかったです。

“問題解決”と“課題解決”って違うんです。問題解決は“現状を把握してあるべき状態にすること”。つまり、雑草が生えないようにコンクリートで舗装すれば問題解決になる。でも現実と理想のギャップを課題と捉えた時、課題解決は“本当の願いを実現すること”。「公園の雑草をなんとかしたい」の本当の願いは「公園で遊べる環境を整えたい」だと導くことができます。

コンクリートは照り返しが暑く水はけも悪いし、なによりその上で遊ぶとなると危険じゃないですか。「たくさん雑草が生えていて公園で遊べない」という現実を「雑草が生えていない公園で快適に遊べる」という理想の状態に引き上げるためにはどうすればいいのか?を考える必要があるんです。

言葉の裏側にある“本当の願い”を受け止める。それが真の課題解決につながるんですよね。

野鳥の被害対策や伝統的な祭の存続。デジタル技術を活用して課題解決に向けて動く事例とは?

実際にどういった課題が“プロジェクト化”されたのでしょうか?

例えば、鮎などの魚をたくさん食べてしまう水産被害や糞が観光地の樹木を枯らし景観悪化につながるなど、全国的に問題になっている『カワウ被害』の対策に向けて動きました。

国の補助金もあり、関係者は個体数を減らそうと懸命に動いていますが中々減らない。そんな時に「カワウの生態を一から知ってから効果的な対策を考えた方がいい」というアイデアが出て、デジタル技術を使ってカワウを追いかけることになったんです。

デジタル技術を使えば野鳥を追いかけられるんですね…!どんなふうに追ったんですか?

カワウに発信機をつけ、GPSを利用して飛行ルートやねぐらの場所を集めたり、カワウの餌となる鮎の釣り人に協力を仰ぎ、カワウを見かけたら写真を撮ってLINEに投稿してもらうことで「どの時間帯にどこにいるのか」を追っていきました。

カワウに取り付けた発信機からデータを収集する様子(プロジェクトページはこちらこちら

結果として、「どこを飛んでいてどこに巣をつくっているのか」をリアルタイムで把握でき、カワウの生態が分かりました。人力でも調査できるかもしれませんが、デジタル技術を使わずに野鳥を追うことは至難の業だと思います。

野鳥の被害対策ですと、他には「学校に棲みついた鳩の糞害がひどく追い払いたい」という声を受け、追い払いのために実験的にドローンを飛ばしたこともあります。今は「毎月1回ドローンを飛ばすことで年間通じて追い払えないか」とみんなで話し合っているところです。

ただ、同様に鳩の追い払いに取り組んでいる専門家から「鳩は帰巣本能が非常に強く、校舎の周りには餌となる穀物が豊富にあるので半永久的に追い払うことは難しい」というご意見をいただいたので、引き続き情報を集めている段階です。

鳩が営巣した校内のアトリウム(プロジェクトページはこちら

『山あげ祭』1の担い手不足を解消するプロジェクトも印象的ですね。サイトには「日常的に祭が見れたらいいのではないか」というコメントが寄せられましたが、市民らの手で創り上げられる『山あげ祭』は1年もの月日をかけて準備されます。

そこでまずは祭の実態を知ってもらうため、準備〜当日の様子を映像化するプロジェクトを行いました。ただ人手不足や資金不足は解消できていないので、「外から祭を支えられる仕組みをつくりたい」という想いのもと、今も試行錯誤中です。

具体的にはふるさと納税の支援メニューをつくったり、地域を離れた人が祭を支える側になるところにデジタル技術を活用できないか…と考えています。新しい参加の形を提案し、地域と祭を守る仕掛けをつくりたいです。

プロジェクトで制作したドキュメンタリー『次代への願い』。地域の方の祭にかける想いや願いが映し出された作品です

「みんなで考えみんなで動く」という全員参加型が特徴!他地域でも応用できる解決策を生み出したい

課題を投稿するだけでなく、実際に解決に向けて動くところにも参画できるんですね。「みんなで知恵を出し合いながら課題を解決しよう」という姿勢が他にない特徴だと感じました。

そうですね。“全員参加型”というところがデジハブの特徴です

似たような取り組みを行う団体さんから「行政が入ってこうした取り組みを行うことはすごく珍しい」と言われたことがあります。行政や民間、NPO法人など、様々な人が課題解決に向けて一緒に動くという取り組みは中々ないのではないでしょうか。サイトの開設から3年ほど経ちましたが、これからも継続していきたいです。

いま求められてることは“実績”ですね。何をもって課題解決と言えるのか…そこはすごく難しいですね。

みなさんは『課題解決』をどうお考えですか?

“アプローチを真似する人が増える”ということも一つの大切な指標だと思います。自分たちだけでなく「それいいね!うちの地域でもやろう」という人が派生し継続的に動ける人が増えることで、様々な課題を解決できると思っています。

同意です。投稿された課題に向き合い、話し合いの中で本当の想いや願い、いわゆる“課題の本質”を知る。そして必要に応じてプロジェクト化し、解決策が生まれる。その先で同じような課題を抱えている他地域に横展開してもらうことが最終的な目標です

デジハブは『地域課題解決のノウハウ本』みたいですね。解決策がサイトに蓄積されて他地域でも役立つことで、様々な地域課題を減らせるかもしれません。暮らしやすい地域が広がっていく予感がします…!

その人が抱いている課題を受け止める、一緒に考える。吐き出せたという気持ちで「ありがとう」という言葉をいただいた時、これもある種の課題解決なんじゃないかと思いました。課題を受け止めて一緒に考え動いたことは、結果を問わず一つの成果でもあると思うんです。

たしかに、モヤモヤや課題感を吐き出す場、聞いてもらえる場があるだけで全然違うかも!

そうですよね。「一人で抱え込まずに吐き出せる場があるんだよ」と。課題を投稿するとみんな真正面から向き合ってくれるので、それが嬉しいという方もたくさんいます。

「自分たちの暮らしを自分たちで考える」。みんなで課題解決を目指し、地域の愛着と主体性を育むプラットフォームに

デジハブを通して自分が暮らす地域に目を向けるきっかけになるかもしれないと強く感じました。最後に、今後の目標について教えてください!

私たちがいなくてもどんどん課題が投稿されて、そこにコメントがたくさんつく。そんなふうにサイトを通じて地域の方が課題解決に向けて自発的に動いている状態が理想ですね。そこから新しいビジネスが生まれたらすごく嬉しいです。

まだ周知が足りないのでどんどん広報していきたいです。継続的な運用を通じてより多くの方に使っていただきたいし、「こんなサイトがあったんだ」と知ってもらえるだけでも嬉しいですね

「自分たちの暮らしをよりよくしよう」という人がたくさん集まるプラットフォームにしたいです。様々な人が入り混じりながら、みんなで住みよい地域をつくろうとする当事者が増えていく。そんなきっかけを与える場でありたいです。

どう頑張っても解決できない課題もあるかもしれません。でもそれは無駄じゃなくて、みんなで「どう地域を盛り上げるか」「どう困りごとを解決するか」と尊重しながら話し合う過程を経て、地域に愛着が湧き、楽しく快適に暮らしていける持続可能な地域がつくれるかもしれない。地域(栃木県)への愛着を育むことも一つの使命です。

登録者から新しい技術について学ぶ『デジタルシーズ勉強会』も定期的に開催しています

市役所や民間企業だけが動くのではなく、“自分が暮らす地域の未来を自分で考える”。様々な立場の人同士が話し合いを重ね知見を共有し合うことで、解決し難いと思われる課題も着実にいい方向に進めることができます。

少子高齢化や地方の過疎化、空き家の増加や商店街の衰退、コミュニティの希薄化など地域課題は山積みですが、デジタル技術を使いこなせる人が増えてきた今の時代だからこそ解決できることはたくさんあります。このサイトから全国で応用できる解決策が生まれたら面白いし、なにより地域で暮らす上での困りごとやモヤモヤを吐き出せる場があることは“暮らしやすい地域の実現”につながるはず。

あなたの暮らしをもっと豊かにする『とちぎデジタルハブ』。「自分が暮らす地域に目を向けてみたい」「地元が好き」という方はもちろん、「暮らしのなかで困りごとや課題に感じていることがある」という方はぜひご利用ください。課題投稿者としても、課題解決者としても、そのどちらでも。まずは気軽に相談からでも大歓迎です ◎

あなたに根づいている考えや習慣、得意なことや好きなことが、いつか誰かの、地域のためになるかもしれません。