〈仕事紹介〉実は同じ生活圏だった?カラスとヒトが共存する社会を目指す。研究室×会社『株式会社CrowLab』のカラス被害対策のシゴト
目次
読者のみなさんはカラスの「カァカァ」という鳴き声を聞かない、出会わない日はないのでは?
カラスと言えば「賢い」「いたずら好き」「なんでも食べる」というイメージがあり、
実際にゴミや畑を荒らしたり人を襲うなど、私たち人間を悩ませる存在です。
しかし、人間にとって一番身近な鳥であっても、実はなかなかその生態を知りません。
一口に鳴き声と言っても、「カァ~カァ~」というような自分の居場所を示す声や、警戒する声など、カラスの声にはいろんな意味があるのです。
今回は、そんなカラス同士のコミュニケーションの研究を用いてカラスの被害対策やコンサルティング行う、株式会社CrowLab(クロウラボ)にライター阿部がお話を伺ってきました。
会社の事務所は、栃木県唯一の国立大学
宇都宮大学 陽東キャンパスのなか。
大学の中に会社があるってなんだか不思議な感じですね…!
なんでも、今回取材する代表の塚原さんは大学で特任助教をつとめながら、会社を経営しているそう。
研究をしながら会社を経営って一体どういうことなのでしょうか?
お邪魔します…!
わあ!カ、カラス…!!
羽がツヤツヤと黒く光るカラスが出迎えてくれました。
ちなみに取材中教えてくださったのですが、オスメスを外見だけで見分けるのは難しいそう。
「剥製のカラスなので、大丈夫ですよ」と声をかけてくださったのは、
代表取締役の塚原 直樹(つかはら なおき)さん。
今回お話を伺ったのは…
カラス研究一筋19年!
株式会社CrowLab代表 塚原 直樹さん
2017年に株式会社CrowLabを設立し、現在は「カラスの鳴き声」を専門に研究しながら、宇都宮大学特任助教と二足の草鞋を履く経営者。
こんにちは。
よろしくお願いします。あのカラスは剥製だったんですね!
よろしくお願いします。
あれは、ハシブトガラスの剝製です。
日本で見られるカラスはだいたい5種類ですが、このハシブトガラスかハシボソガラスの2種類が多いです。海外に行くとまた種類が違うんですよ。
さっそく豆知識!
本日はカラスの意外な一面、そして塚原さんのお仕事についてぜひ聞かせてください!
大学と共同研究する「株式会社CrowLab」ってどんな会社?
大学に事務所があったり、研究をしながら会社経営もされていたり…
気になる点がたくさんあるのですが、ズバリ「株式会社CrowLab」とは、どんな会社なのでしょうか?
私の会社は、研究に基づいたカラス被害対策を行う専門の会社です。カラス同士のコミュニケーションを用いた被害対策の製品開発やコンサルティングを事業にしています。
もともと、私がカラスの研究の実績がある宇都宮大学でカラスを研究していたこともあり、現在も宇都宮大学といくつかの大学と連携しています。また国内外の研究機関の研究者や学生さんと共同研究を行っています。
大学と共同研究…!そんな仕組みがあるんですね!
被害対策はどんな方が利用されているのでしょうか?
自治体が多いですが、畑を荒らされてしまう農家さんですとか、電力会社や鉄道会社などのインフラ系の会社さんですかね。あとは何でしょう…。工場の駐車場で糞害に困ってるというケースもありました。…そんなところですかね。
たしかに駅や交通機関でもカラスってよく見かけますね。
鳴き声で行動をコントロール?
特徴は「研究」に基づいたカラスの被害対策。
もう少し詳しくお聞きしたいのですが、”カラス同士のコミュニケーションを用いて被害対策を行う”とは、一体どういうことなのでしょうか。
カラスって実は鳴き声を使い分けているんです。
「カァ~カァ~」という声は、仲間に居場所を示す意味だったり
「ガァッ!ガァッ!」という濁った声は、警戒している声だったり…
特に警戒している声は、他のカラスにも影響を与えることが19年研究している中でわかっています。
私の会社では、そういった鳴き声を使って「ここは危険な場所だ」と認識させたり、カラスの群れをねぐら(寝る場所)や被害のない場所へ誘導したりと、カラスの行動をコントロールして被害対策をしています。
なるほど…!
よく黄色のゴミネットやカカシでの被害対策を見ますが、また違うんですね。
まあ…、慣れてしまうんですよ(笑)
色のついたゴミネットとかカカシとか超音波とか…カラスが嫌がるという科学的な根拠はないんです。
カラスはビビりなので、目新しいモノに警戒しているだけです。
同じネットやカカシを使い続けてもいずれは慣れてしまって効果がなくなるんです。
同じく、鳴き声も同じ音声を流し続けると追い払い効果は無くなってしまうので、弊社ではカラスを追い払う音声パターンを複数持っています。慣れてしまった場合にも、再生する音声を交換することで、再び追い払い効果が発揮される用に工夫をしています。
慣れてしまう!それは知りませんでした!!
CrowLabでは、研究に基づいたサービスが特徴なんですね!
教授の一言で変わったカラス研究の道。
そもそも、塚原さんはどうしてカラスを研究することになったのでしょうか。カラスが好きだったとか…?
そこまで好きではなかったです(笑)
ですが、もともと動物は好きで宇都宮大学の農学部に入りました。当時カラスの研究をされていた杉田昭栄教授の「動物の体の仕組み」に関する授業が面白くて、その教授の研究室に入ったんです。
特にこれを研究したいと決めていたわけでもなく、漠然と研究者になりたいと思っていたのですが、「卒業後は研究者になりたい」という話を教授に相談したら、「君にいい研究テーマがあるよ」と。
そこからカラスの鳴き声の研究が始まりました。
教授の一言でカラスを研究することになったんですね!
てっきり、カラスが好きなのかと…
好きではないです(2回目)
ですが、研究対象としてはとても興味深いですし、いつもカラスのことを考えているので、今は全く好きではないというと嘘になります。
ただ、研究結果を歪んで解釈してしまうことがあるので、研究対象にあまり感情移入しないようにしています。
研究者と社長の二足の草鞋を履く
塚原さんのとある1日
ちなみに「研究者」と聞くと、ずっと研究室にこもっているイメージがありますが、実際はどんな1日を過ごしているのですか…?
地方に出張に行くことが多いので、日によって様々ですが、だいたい日の出の時間に合わせて起きています。
出張時に合わせて「カラスに方言はあるのか」と全国各地で鳴き声を収集しているそう。
朝早くからお仕事されているんですね。そして就寝時間も早い!
何か秘訣があるのでしょうか?
秘訣というか、早く寝ちゃうので早く起きちゃうだけです(笑)
カラスは日の出の30分前から行動し始めて、餌を探しに行くんです。カラスの生活リズムに合わせていたら自然とこうなりました。
大学時代から指導教員にお尻をたたかれ、矯正された感じですかね。
ちょっとマニアックなカラス料理の研究。
でも本当の理由は…
カラスの鳴き声以外に研究されていることはあるのでしょうか?
そうですね…
色々と課題があり、事業化はできていませんが、過去にはカラスの肉を使ったカラス料理を研究することもありました。
カラスって食べられるんですか?!
どうしてそんな研究を…?
カラスの被害は各地で頭を悩ませることも多く、全国で有害鳥獣駆除を行っています。
しかし、カラスの繁殖力を考えると、相当な数を捕まえないと被害を減らすことはできないと考えられています。またカラスは賢いので(個体差もありますが)、相当な数を捕まえることは難しいと思います…。
罠の餌代や人件費もけっこうお金がかかってますが、その時に捕獲されたカラスは、何も活用されることなく、ほぼ100%ただ処分されてしまいます。
そこで、ただの処分で終わらずに何かできないかなと。
なるほど…!
カラスの肉の安全性や栄養、食べられていた例などを調べる他、レシピ開発なども行いました。
カラス肉はタウリンや鉄分が豊富なんですよ。
でもまあ…、ニワトリと違ってカラスの肉は羽で100gも取れないですし、食べるに至るまでの処理の手間などを考えると高級和牛くらいの値段にはなってしまうので、何か工夫しないとビジネスにはならないです(笑)
マヨラーなのにあんなにスリムだなんて…と関心するライター阿部。
これまでいろいろな研究や挑戦を経てきたCrowLab。
大学教員からどうして起業に至ったのでしょうか?
研究を社会に役立てる。
研究者の傍ら、2人創業でスタートを切る。
カラスって私たちが知らないだけで面白い一面がたくさんあるんですね…
大学教員の道のみを進むこともできたと思いますが、なぜ起業することになったのでしょうか?
カラスの鳴き声の研究をする上で、いろんな被害の現場を見てきてたんですけれど、お困り相談が私や師匠である教授のところにもよく来ていて…
そこで、自分の研究が何かそういうところの役に立てればいいなと思ったんです。
実は2人で起業した株式会社CrowLab。
塚原さんが総合研究大学院大学で助教を務めていた際に、
当時学生だった永田さん(現 CrowLab 取締役)をスカウトしたのだとか。
しかも、永田さんはもともと京都大学で天文学を専攻し、総合研究大学院大学では進化学や科学史を研究していたとのことで、全くの異分野への挑戦に驚きです!
それにしても、19年も研究を続けられるってすごいことだと思います!
その上で社長も兼任されていて…
どちらも自ら主導しなければならず、大変な面も多いかと思います。
両立する上で工夫されていることはありますか?
そうですね…
研究を続けられたのは、まあ沼にはまったというか、のめり込んでいったというか(笑)
両立に関しては深く考えすぎず、いい意味でいい加減にこなすということでしょうか。
もともと飽きっぽい性格もあってか、いろいろなことをパラレルにこなすのが好きでした。そうすると片方で行き詰ったときなど良い気分転換になったり、また片方で得た経験や視点を活かせるなど利点もあると思います。
でも、一番はとにかく楽しむことを考えてモチベーションを維持するようにしています。
大学生の時にはWEB制作の事業などもしていて、現在もClowLabのWEBサイトも自作されています!
では、このお仕事をする上でのやりがいはなんでしょうか。
やはり、お客様のお困りごとを解決したときに、やりがいを感じます。
私たちのところへ依頼してくださる方々は、だいたいもう対策をやり尽くしてるんです。そこで困り果てた方々が最終的に私たちのところに相談に来ています。
ですので、そこで私たちの技術で問題が解決したときには「研究が役に立っているんだな」と嬉しくなります。
ここまでカラスの知られざる一面や研究について語ってくださった塚原さん。
カラスについて誤解していることも多くあったなと振り返りながら
最後にこれからの目標についてお伺いしました。
同じ生活圏で暮らす「カラスとヒトが共存できる社会」を目指して
「カラスとヒトが共存できる社会」を目指しています。
この仕事をしていると、よく「カラスを森に帰してくれ」とお願いされることがあるのですが、実は人間とカラスの生活圏って同じなんです。
ゴミ出しの際にネットをきちんとかけなかったり、畑にまかれた規格外の野菜や収穫しない実など、これらはある意味餌付けと一緒でカラスの被害が増える原因になります。
ですので、こちら側がカラスの特性を理解してきちんと管理し、一線を引くということが大切だと思っています。
そこに私たちの技術も活用して、人間とカラスがうまい距離感をもてるような、「共存できる社会」を作っていけたらなというところです。
相手の性格や言動をくみ取ってコミュニケーションを取るように、カラスとヒトとでもお互いを理解することが大切なんですね。
ありがとうございました!!
みなさん、いかがでしたでしょうか。
今まで少し不気味に感じていたカラスにも、親しみを感じることができたのではないでしょうか。
ライター阿部は取材後からカラスの鳴き声を聞くと、思わず振り返って「これはどういう意味なのだろう…!」と気になって仕方がありません!!
もしかしたら、カラスと会話できる日はすぐそこかも。
知らないというだけで、怖く感じたり不安に感じることは当たり前のこと。
これからは同じ場所で暮らすカラスのことを一緒に少しずつ知ってみませんか?
「カラスの生態についてもっと知りたい!」という方はホームページや塚原さん著書の『カラスをだます』(NHK出版)をぜひ読んでみてください。
思わずくすっと笑ってしまうユーモアたっぷりな語り口で楽しくカラスについて学ぶことができます。
会社情報
株式会社CrowLab
〒321-8585
栃木県宇都宮市陽東7-1-2
宇都宮大学 産学イノベーション支援センター
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TEL&FAX: 028-666-5569
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