「栃木市=嘉右衛門町伝建地区」となる日を目指して、魅力あるまちづくりを。『合同会社Walk Works』社員 遠藤 百合子さんのしごとと想い
目次
あなたは『伝統的建造物群保存地区』という言葉を聞いたことがありますか?
伝統的建造物群保存地区とは、全国各地に残る歴史的な集落・町並みの保存を図るために市町村が決定した地区のこと。
市町村からの申出の中から、我が国にとって価値が高いと判断したものを国が『重要伝統的建造物群保存地区』に選定します。
令和3年8月2日現在、43道府県104市町村126地区が重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。
今回取材に伺った栃木市にも、県内唯一の重要伝統的建造物群保存地区があるんです。
その名も、『栃木市嘉右衛門町(かうえもんちょう)伝統的建造物群保存地区』。
栃木市嘉右衛門町伝統的建造物群保存地区(以下、「嘉右衛門町伝建地区」または「伝建地区」)は、栃木市の泉町、嘉右衛門町、小平町、錦町、昭和町の各一部からなる地区です。
見世蔵や土蔵など、江戸末期から昭和前期頃にかけての数多くの伝統的な建造物が残る景観が評価され、平成24年に栃木県で初めての重要伝統的建造物群保存地区となりました。
それらの伝統的な建造物の魅力だけにとどまらず、新しいお店のオープンやイベント開催など時代に合った新しい魅力を取り入れ、昨今ますます盛り上がっている地域です。
そんな嘉右衛門町伝建地区を盛り上げるために活動しているのが、合同会社 Walk Works 社員の遠藤 百合子(えんどう ゆりこ)さんです。
今回は嘉右衛門町伝建地区の中心に位置する『嘉右衛門町伝建地区拠点施設ガイダンスセンター』(以下、「ガイダンスセンター」)にお邪魔し、お話を伺ってきました!
ガイダンスセンターの様子を一通り見させていただいたところで、早速遠藤さんにお話を伺っていきましょう。
合同会社 Walk Works / 遠藤 百合子(えんどう ゆりこ)さん
栃木県日光市出身。高校時代まで栃木県で過ごし、大学進学を機に上京。都内の大企業2社で働いたのち、都内の認定NPO法人ふるさと回帰支援センターで栃木県移住相談窓口の相談員を担当する。その後結婚、子育てを機に栃木県にUターンし、栃木市の地域おこし協力隊を3年間務める。現在は、夫の遠藤翼さんが代表を務める『合同会社 Walk Works』の社員として、栃木市嘉右衛門町伝建地区のエリアマネジメント推進やシェアキッチンの運営などを行っている。
嘉右衛門町伝建地区を盛り上げるお仕事の数々
いつもSNSを拝見しています!SNSを見ていると遠藤さんは様々なお仕事をされているなあと感じているのですが、具体的なお仕事内容を教えていただいてもよろしいでしょうか?
『share kitchen & space CHIDORI』というシェアキッチンの運営や店主さんのサポートに加えて、自分自身で『紅茶喫茶cuppa』(CHIDORIにて月曜日にオープン)という紅茶を提供するお店をやっています。また、合同会社 Walk Worksで『NPO法人嘉右衛門町伝建地区まちづくり協議会』の事務局をやっているので、私自身もガイダンスセンターで働いていることもありますし、そこで働かれている皆さんのシフト作りやサポート、建物の管理もしてます。嘉右衛門町伝建地区でのイベントの企画やSNSでの情報発信もしていますね。
遠藤さんは月曜日に開店している『紅茶喫茶cuppa』の店主でもある
遠藤さんは日光市のご出身。
「地元を盛り上げたい」「地元で働きたい」。そう感じる人は少なくないと思いますが、なぜ遠藤さんは“地元ではない”栃木市で活動する道を選んだのでしょうか。現在に至るまでの道のりについて遠藤さんに聞きました。
大企業での仕事から、自分のやりたいことをする個人の仕事へ
大学進学を機に上京して、新卒で都内の民間企業に入社しました。そこで約8年半勤めていたのですが、自分の今後の人生を考えた時に、「ずっとこの会社にいて良いのだろうか…」と思うようになりました。だからといって、何か他にやりたいことがあるわけでもなく、でも今の仕事を定年まで続けるイメージは描けないな…とモヤモヤする時期が続き、「30歳までに仕事を辞めよう」と決意したんです。
前職はずっと激務だったので「一度休憩してやりたいことをやろう」と思い、半年くらい仕事をせずに、旅行や習い事をして過ごしました。
そんな時、前職で交流のあった栃木県庁の職員の方から、栃木県の移住に関して意見交換をする場に招待されたんです。でもその時は、栃木県に戻るなんて1ミリも考えていなかったので参加を迷っていたんですよね。
多くの悩みや葛藤があったんですね。嘉右衛門町で精力的に活動されている今の遠藤さんからは想像もつきませんでした。
そうですよね。それで、「せっかくの機会だし楽しそうだから行ってみよう」と思って参加したら、その時初めて「栃木県にもこんなに地域で活動してる人がいるんだ」「面白いことをしている人がたくさんいるんだ」と知り、衝撃を受けたんです。
その会をきっかけに東京都を拠点に活動している栃木県出身の方2人と仲良くなり、後日東京都で飲み会をすることになったんです。
その飲み会には栃木県出身の人たちが6人ほど呼ばれていて、私は単なる飲み会のつもりで参加していたのですが、「僕たちも栃木県出身として東京都で何かやっていきましょう!」と徐々にみんなで語り合うような熱い会になっていったんです(笑)
その日をきっかけに栃木県出身者によるイベントをやることになり、私も自然と巻き込まれていきました。
もともと地域活動をしたいと思っていたというよりは、たまたま参加したイベントをきっかけに地域活動をするようになっていったのですね。最初はどのようなイベントを企画したのですか?
初めに企画したのが、栃木県で活動している方を4人ほど東京都にお呼びして、ご自身の取り組みなどについてお話していただく『とちぎDay@東京』というトークイベントです。約70人のお客さんが参加してくださり、イベントは大成功しました。そこで初めてイベント企画と開催に関わったのですが、それが結構面白いと思えたんです。
その後すぐに次のイベントの企画に入って、餃子を食べるイベントや『とちぎDay@東京』の第2回など様々なイベントを開催していく中で、私自身もメインでイベントを企画するメンバーになっていきました。
実際にイベントを企画・開催していく中で、その面白さに気づいていったんですね。
そうなんです。ちょうど仕事を辞めた後に、プライベートでそんな風に栃木県の活動をしていたんですが、退職して半年くらい経った頃に再就職を考えるようになって民間企業に話を聞きに行ったんですよね。そうしたら、話を聞くだけのつもりがそのまま面接することになってしまって(笑)結果としてその企業に採用になったので、そこで働くことになりました。
約1年間その企業で働いていたんですが、だんだんとプライベートで続けていたイベントの企画運営などの栃木県の活動をやってるほうが楽しくなってきちゃって。「栃木県に関われる仕事ってないのかな?」と思い始めたんですね。
それに加えて、大企業2社を経験して、「大企業は合わないかも」と感じ始めていたんです。プライベートでやっていた栃木県の活動を通じて、自分が企画したことでみんなが喜んでくれるのがすごく楽しいなと感じていたので、「会社の看板を背負って組織の一員として働くよりは個人で働きたい」という想いが強くなっていった部分がありました。
そんな時に、東京都の有楽町で移住相談センターなどをやっている『認定NPO法人ふるさと回帰支援センター』で栃木県の移住相談員の求人募集があったんです。移住に関する知識はないけれど、『栃木県と東京都を繋ぐ仕事』って自分にとって理想的だなと感じたんです。その時は「お給料よりもやりたいことを楽しくやりたい」という想いが強かったので応募することにしました。
栃木県へのUターンまでの道のり。ワクワクを大切に、地域おこし協力隊への挑戦
プライベートで行っていた栃木県の活動が遠藤さんの仕事観にも変化をもたらしたのですね。栃木県の移住相談員って、まさに遠藤さんにぴったりのお仕事ですね。
移住相談員として東京都で働いたところからどのような経緯で栃木県にUターンすることになったのでしょうか?
移住相談員を約2年務めたのですが、その途中で栃木県出身の方と結婚して子どもが生まれて、育休を取得しながらの子育てを考えた時に、夫と「栃木県に戻る?」という話になったんです。
その頃は夫が千葉県で働いていて、私も育休中ではありましたが移住相談員の仕事に復帰する可能性があったので、栃木県だったらそこから通勤可能だと思ったんですね。
そこで、栃木市移住体験施設を使って、栃木県から東京都に通勤をする体験をしてみたんです。実際に体験してみて、栃木県に戻ってきても仕事を続けられそうだと感じたので、拠点を栃木市に移すことにしました。
空き家で暮らす体験ができるプログラムがあるのですね!遠藤さんのように東京都への通勤が可能かどうかを確認したい人や、移住体験をしてみたい人に良いですね。
ところで、多くの市町村の中でも栃木市を選んだのはなぜですか?
通勤のしやすさやお互いの実家との行き来のしやすさなどを考えて、栃木市が1番良いなと感じました。
それから、栃木市に対してとても可能性を感じていたんです。栃木市は若い世代が積極的にまちづくりの活動をしている印象があって、かつUターンしてくる人や移住してくる方たちが積極的に活動していたんです。そこに私たちが入ってても何らかの形で関わることができるんじゃないか、と。
あとは移住相談員をやってた時に、栃木市は移住に対してとても力を入れて取り組んでいるなと感じていました。私自身もせっかく移住するなら移住者の受け入れに力を入れている自治体がいいなという想いがあったので、栃木市に対しては良い印象を抱いていました。
そこからどのように現在の嘉右衛門町伝建地区の活動に繋がっていくのでしょうか?
移住するにあたって、まずは空き家探しから入ったんですね。栃木市の空き家バンクは、成約件数が日本一になったこともあるくらい、とにかく空き家の登録数が多いんですよ。
一度実際の空き家を見せてもらおうと栃木市に内覧をしに来たんです。その時に栃木市役所の方から、「今度、嘉右衛門町伝建地区の活性化に取り組む『地域おこし協力隊』の募集がある」と聞いて。
その話を聞くまではまさか地域おこし協力隊に自分がなるとは思ってもいなかったのですが、お話を聞いて心が惹かれたんですよね。その後家族とも話し合って応募することにしました。これもいきなり降ってきた話で、私ってそういうパターンが多いんですよね(笑)たまたま降ってきたものに乗っかってしまうっていう人生で(笑)
多くの偶然が積み重なって今の遠藤さんがあるのですね。移住相談員のお仕事を退職されて、地域おこし協力隊としてどのような活動をされていたのでしょうか?
3年間の任期中に、地域の方々と一緒にイベントの企画・開催、冊子やガイドマップなどの広報物作成、WebサイトやSNSを活用した情報発信をしました。また、『嘉右衛門町伝建地区まちづくり協議会』(現在は「NPO法人嘉右衛門町伝建地区まちづくり協議会」)の事務局をしていました。
遠藤さんが作成した広報物の1つ『地と』のWEB版は以下からご覧ください!
「この地域を盛り上げよう!という熱意」と「ほっとする落ち着いた雰囲気」が融合する町
地域おこし協力隊の任期を終えた現在も引き続き嘉右衛門町伝建地区で活動されていますよね。どうしてここで活動し続けたいと思ったのですか?
一番はやっぱり、この地域の空気がより好きになったからですね。3年間嘉右衛門町伝建地区で活動してきて、引き続きこの町に貢献していきたいなと強く思ったんです。
嘉右衛門町伝建地区は遠藤さんの今後の人生を変えるほどの魅力を秘めていたのですね。
そうですね。この地域は南北700メートルくらいの狭いエリアではありますが、『NPO嘉右衛門町伝建地区まちづくり協議会』や30年以上前から活動されている『栃木の例幣使街道を考える会』、若いメンバーで構成されている『クラモノ。』、大工さんや建築家の方々で構成されている『かえもん暮らし』など、たくさんの団体が活動しているんです。
嘉右衛門町出身ではない人も多いのですが、皆さんこの地域が好きで活動されているんですよ。嘉右衛門町の出身じゃない人たちが「この地域をより盛り上げていこう」と活動している姿を見て、「私も一員になれたらな」と思うようになりました。
それから、全国の伝建地区の中にはにぎやかな雰囲気の地域もあると思いますが、嘉右衛門町伝建地区は観光地というよりは人々の暮らしが共存している落ち着いた感じがあって、どこかほっとするようなところが魅力かなと思っています。
「地域のためになるか?」複合的な視点から生まれるアイデアたち
シェアキッチンや新しいイベントなど、これまで嘉右衛門町伝建地区で行われていなかった新たな取り組みを次々と実施している遠藤さん。画期的なアイデアは、一体どこから生まれてくるのでしょうか。
シェアキッチンのアイデアは、正直たまたまなんです。嘉右衛門町は頻繁に空き店舗が出てくるわけではないのですが、現CHIDORIの物件が空いているという話を聞きつけて会社で購入したんです。活用方法は未定でしたが、いざとなれば会社の事務所として使えるのではと考えていました。
ただ、より多くの人に嘉右衛門町伝建地区に来てもらうためにはお店にしたほうが良いと思っていたんですね。会社で使いたい時は使えて、誰かにお店もやってもらえる。そんな上手い使い方ってできないかな?と考えている時に、シェアキッチンやイベントスペースが良いんじゃないかと思いついて。
ちょうど身近にお店をやることに関心を持っている人が何人かいたので、シェアキッチンを立ち上げることになりました。
先に空き家を抑えて、その後、自分たちにとっても町にとっても良い活用方法を見つけていったんですね。面白いイベントのアイデアはどこから生まれてくるのでしょうか?
自分がやりたいというだけではダメだと思っているので、「本当にこのイベントはみんなに喜んでもらえるか?」「イベントを通じて何か地域課題を解決できないか?」など、複合的なことを考えてやっていますね。あとは、他の人から「これやりたいんだよな」というアイデアをいただいて、それをブラッシュアップして形にしたりすることもありますね。
嘉右衛門町伝建地区のこれから。「栃木市といえば嘉右衛門町伝建地区」と言われるようになりたい
嘉右衛門町伝建地区のまちづくりや遠藤さん自身の仕事などに関する今後のビジョンはありますか?
また、8月1日から3ヶ月間の期間限定で社会実験としてシェアサイクルの運用が始まったので、シェアサイクルも活用して嘉右衛門町伝建地区まで来てくれる人が増えればいいなと思ってますね。
シェアサイクルを活用すれば、蔵の街大通りや嘉右衛門町などをまるっと観光することができますね!
自転車は8ヶ所あるステーションのうち、好きなステーションに返却できます
仕事に関しては、夫婦共々面白いことがあったらどんどんやっていくというところがあるので、具体的に10年後の目標みたいなものは明確には描けていないですね。ただ、CHIDORIは始めて1年も経っていないですし、ガイダンスセンターの運営もちょうど1年が経ったばかりですから、まずはそこをしっかり地域に根ざした場所にしていきたいですね。
「不安」よりも「ワクワクすること」「自分が得意なこと」「面白そうなこと」にチャレンジする
ここまでお話を伺って、少し気になることが。
遠藤さんはたまたま降ってきた運をものにする能力に長けている…。なぜそれができるのでしょうか?
ここ10年ぐらいのターニングポイントは、たまたま乗っかったらそれが自分の道になってたみたいなところがあって。何か引っかかることがなくて、不安よりちょっとでもワクワクのほうが大きかったらとりあえずやってみる、みたいなところがありますかね。
自分のワクワクする気持ちに従う感じなんですね。
でも、怖さを感じたらやらないんですよ。大きなリスクがないなら乗っかって、それに乗っかったからには責任を持ってしっかりやっていこうという気持ちで続けてますね。
リスクもやってみないと分からないですよね。リスクかと思いきや、もしかしたらそれがチャンスになるのかもしれないし。だから挽回できないようなリスクがあるならやらないけれど、少しでも可能性があるならトライするかな。
あと、苦手なことにはあまり挑戦しないんですよ。苦手なことにチャレンジするのはもちろん大事だと思うけれど、それって時間がかかるし、「やってみたけどやっぱりできなかった」っていうことがあるとそれがトラウマになっちゃったりするから、自分が得意なことや面白いと感じることに乗っかることが多いですね。
でもこれは、ある程度社会人経験をしてきた今だからこそ言えること。若いうちはとりあえずやってみて、失敗も経験してこそ学習になるし、自分に合う・合わないの判断ができるようになると思います。
嘉右衛門町伝建地区に興味を持ったあなたへ
この記事を読んで嘉右衛門町伝建地区に興味を持つ人もいらっしゃると思うのですが、ボランティアできる機会や若者の手を必要としていることなどはありますか?
もし興味を持ってくださったら、イベントの時などにボランティアスタッフとして一緒に活動できたら嬉しいですね。KaemosやSNSに「ボランティアしたいです」などとメッセージをいただければ、イベントなどがあるタイミングでお声がけさせていただきます。
また、NPO法人嘉右衛門町伝建地区まちづくり協議会で第1日曜日の朝7時から伝建地区内の清掃活動をやっています。誰でも参加いただけるのでぜひ参加してみてほしいです。
いつでも大歓迎です!
たまたま降ってきた話は、自分の人生や価値観を変える大きな出来事になるかもしれない。
「面白そう」「ワクワクする」、そんな自分の感性を信じてみる。
そんな大切なことを、遠藤さんのお話を通じて学ぶことができました。
また、嘉右衛門町伝建地区は、暮らす場所、働く場所、観光で訪れる場所、挑戦する場所、どんな場所としてもとても魅力的な町だと感じました。
ぜひ実際に嘉右衛門町伝建地区に足を運んで、その魅力を肌で感じてみてくださいね。
各種情報
『嘉右衛門町伝建地区拠点施設 ガイダンスセンター』について
住所:栃木市嘉右衛門町2-11 (東武線新栃木駅から徒歩約15分)
開館時間:9:00〜18:00
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12/29〜1/3)
嘉右衛門町伝建地区の情報サイト『Kaemos』各種SNSについて
Instagram:https://www.instagram.com/kaemo_s/
Facebook:https://www.facebook.com/kaemos
シェアキッチン『share kitchen & space CHIDORI』店舗情報
住所:栃木市嘉右衛門町13-15
各曜日の出店情報や営業スケジュールはInstagramから。
『合同会社 Walk Works』について
TEL:080-5449-0179
お問い合わせ先:info[at]walkworks.co.jp([at]は@)※お名前・所属先・メールアドレス・電話番号・本文をご記入の上、お送りください。