誰もが生きやすい世の中に。“悩み”や“生きづらさ”を仲間と分かち合う『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』
2025年で創立25周年を迎えた『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』は、2000年10月15日に全国で5番目に創設されたセルフヘルプ・クリアリングハウス(SHC)1です。主に、生活を送る中で生まれる“悩み”や“生きづらさ”を仲間とわかちあう空間づくりや情報の提供を行っています。
今回、2026年6月20日に代表として就任した館野 智子(たての ともこ)さん、そしてコアメンバーの1人である池上さんにお話を伺いました。

『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』の主な事業は、
①セルフヘルプグループを必要としている住民への情報提供やメールや郵便による相談支援
②とちぎセルフヘルプ情報支援センターに関する普及・啓発活動(セルフヘルプセミナーの開催等)
③県内にまだ創設されていないセルフヘルプ・クリアリングハウスの設立やマッチングシステムによる設立支援
④セルフヘルプ・クリアリングハウス同士の交流(セルフヘルプ・クリアリングハウス交流会の開催等)の4つ。
『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』創設までの流れ
『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』の創設に至るまで、どのような経緯があり、どのような準備が行われてきたのでしょうか。
『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』のようなセルフヘルプ・クリアリングハウスでは、アルコール関連の問題に対するソーシャルワークが専門のボランティア・スタッフもおり、初回面接の際に「断酒会などのヘルプグループが存在することをご存知ですか?」と尋ねるようにしているとのこと。
すると、「知らない」と答える方が多かったそうです。
そこで、より多くの栃木県民にセルフヘルプグループの重要性を周知し、それが波及してセルフヘルプ・クリアリングハウスを中心に据えた地域をつくることを目指し、『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』が創設されました。
創設にあたり、ボランティアやスタッフの募集はもちろん、初代代表の岡田 正彦(おかだ まさひこ)さんの元同僚で当センターの代表をも務めていた渡邉 厚司(わたなべ あつし)さん、とちぎボランティアネットワークの矢野事務局長などに趣旨説明を行い、2000年、創設に至りました。
ただ、そこに居るだけでいい。空気で「うん」と頷いてくれる場所
館野さん、池上さん、本日はよろしくお願いします!まず、お二人にとって『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』はどのような場所かお聞きしたいです。
セルフヘルプは、 “支援する人がいて、される人がいる”という関係性ではないんです。セルフヘルプの催しの一つに“わかちあいの時間”があるのですが、この時間では、一人ひとりがいま感じていることや本当の気持ちを打ち明け、誰に評価されることもなく聞いてもらうことができます。

池上さん自身、精神疾患を持つお子さんがいる中で、精神疾患を取り巻く社会の空気に言葉にしづらい重さを感じています。「警察沙汰になったこともある」と池上さん。そうしたさまざまな経験を経て感じた苦しさや辛さは、近所の人やママ友、学校にもなかなか相談できなかったそう。
初めのうちは学校の先生も熱心に相談に乗ってくださっていました。でも最終的には、「医療機関とつながってほしい」と言われてしまって。「もう医療につなぎましたから」と切られてしまったこともありました。
セルフヘルプグループは、心理職の方やバーンアウト2された方などが多く、気持ちに寄り添っていただけることが多くて。とはいえ、とくに何もなくても来ていいんです。「ちょっとふらっと立ち寄った」という感じでも全然大丈夫です!
また、池上さんは誰にも評価されない“仲間”というスタンスを大切にしており、話したいことを本音で話すようにしているそう。
池上さんにとっての『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』は、話したいことを本音ベースで話しつつ、みんなが受け入れてくれる、“空気で「うん」と頷いてくれる”場所だと語ります。
ただ、そこに居るだけでいいんですよね。話したくなったら話せばいいので、その“強制されない感じ”が一番いいなと思っていて。話したくない時には「パス」と言えば大丈夫なので安心です。
「仲間がいる」「ひとりじゃない」と思える空間が居心地の良さにつながっている。池上さんの言葉に、館野さんも強く頷き、共感していました。
私は元々話すことが苦手なので、たとえパスがあったとしても「初対面の人とはどんな話をすればいいんだろう」と当時はとても難しく思っていました。そこで、手でちぎった紙を台紙に貼り形や色を表現する“ちぎり絵”を通して参加者と向き合う場をつくりました。
ちぎり絵!素敵ですね、楽しそう…!
みんなでちぎり絵を作る場では、作品作りを通して「この色きれいだね」という何気ない声から会話が生まれます。もちろん、ひとりで黙々と作っていても大丈夫です。話したい時には誰かと話せる、つながれるー。そんな場にすることを心がけましたね。
館野さんにとってちぎり絵は、人とのつながりをつくる一つのきっかけとして活かされているようです。
コロナ禍を経て減った、顔を合わせて話す機会
以前は“わかちあいの時間”が頻繁に行われていましたが、新型コロナウイルス感染症が流行して以降、対面での実施機会が減り、参加者も少なくなってしまったそうです。
それでも、『ゆっくりやろう、でもやろう』(とあるセルフヘルプのスローガン)という言葉に力を貰いながら活動を継続しているとのこと。
コロナ禍を経て、今では参加者が数名になってしまいましたね。必要としている方にこうした場があることを知ってもらえるように、もっと宣伝の幅を広げられたら…とも考えているところです。
新型コロナウイルス感染症が流行して以来、急速にインターネットが発展し、イベントや集客のための宣伝もSNSが主流になっていたりと多様化しています。『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』では、新型コロナウイルス感染症が流行する以前は手紙で参加者とやり取りを行っていたこともあったそうです。
自分の経験を、誰かを支える力に
2026年6月20日に『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』の代表に就任した館野さん。
代表に就任したきっかけは、自身の体験談を『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』のメンバーの前で話したこと。そこでは、自身が実際に経験した病気やその背景、診断名が分かり自身の状態を把握できたことや安心したことについてお話ししたそうです。
当時、どのようなことが館野さんの安心につながったのでしょうか。
初めのうちは「自分はなんでできないんだろう」「何がいけないんだろう」とずっと自分のことを責めていたのですが、いろいろな病院に行き診断名が分かった時、「こんな病気や症状があったんだ」とすごく安心しましたね。
舘野さんは『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』の活動に加えて、自分と同じ病気を持つ当事者へのピア・サポートも行っています。
ピア・サポート(peer support)は、仲間(peer)同士が対等な立場で支え合うことを指します。支援する側・される側の一方向の関係性ではなく、互いの経験や知恵を分かち合いながら助け合う関係性です。
当事者の経験が支援の力になり、同じ経験をした仲間だからこそ、孤立感を和らげ、安心感や希望を与えることができます。このピアサポートは、精神疾患・障がい・依存症・がんや難病・産前産後の悩みなど、さまざまな分野で行われており、地域活動支援センターやセルフヘルプグループ、オンラインコミュニティでも活用されています。
元々ピア・サポートに関心があり、15年前からピア・サポートについて学んでいます。学ぶ中で、「栃木県にピア・サポートを広めたい」という想いがずっと心の中にあって。その想いが今の活動につながっていると思っていますね。
そしてピア・サポーターとして活動する中で、“一言も話さなかった人が回数を重ねて徐々に自分の話をしてくれるようになった時”にやりがいを感じたと話します。
ピア・サポートの活動を始めたばかりの頃、相手に声をかけ過ぎてしまったあまり話しづらい雰囲気になり、失敗してしまった経験をしました。その時に、その方から「心配ではなく信頼をしてください」というお声をいただきました。
“自分が良かれと思って声かけすることは相手のためにならないこともある”とハッとさせられた出来事だっただと、館野さんは語ります。

『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』とピア・サポーター両方の活動に関して、どのようなことを意識して参加者と向き合っているのでしょうか。
私から質問をするのではなく、相手が話したい内容を聞くことに徹しています。つまり、“相手が話したいことだけを聞く”ことを大切にしていますね。一人ひとり違う人生だからこそ、自分にとっては違和感のない話でも、相手にとってはあまり気分が良くない話だった、ということもたくさんあるんです。
特に踏み込んだプライベートな話はこちらからはしないよう心がけており、“相手が自然に話せるようになるまで待つ”ことを意識しているのだそうです。
発信の幅を広げ、もっと多くの人に知ってほしい
これから『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』をどのように発展させていく予定なのか、ビジョンをお聞きしたいです…!
以前、セルフヘルプグループの所在が明記されている冊子を作成いただいたのですが、時間が経つ中ですでに解散したセルフヘルプグループも見られたんです。
新型コロナウイルス感染症など、さまざまな変化がありましたからね…
そうなんです。なので、まずは栃木県内にどのようなセルフヘルプグループやセルフ情報センター(セルフヘルプ・クリアリングハウス)があるのかを一覧で確認できるよう、「新たなバージョンに更新したい」という想いがあります。
セルフヘルプグループの存続には、“世代”が関わることがあるそうです。例えば、保護者が当事者である子どものために創設したセルフヘルプグループは、子どもが成長するにつれて活動内容が変わっていくとのこと。
そのような各セルフヘルプグループの実態や課題を把握した上で、「もう一度関係性づくりを行いたい」と館野さんは言います。
また、情報を発信するツールの幅を今以上に広げていくことも目標の一つとしてあるそうです。
紙だけではなく、SNSを活用した情報発信にも力を入れていきたいですね。例えば、LINEで相談できるようにすると、対面で話すというハードルを下げることができるのではないかと思っています。
相談しやすいですが、一方で怖さもありますね。 LINEやChatGPTも手軽に相談することができるからこそ、個人情報の取り扱いなどに注意しなければならないですよね。対面で話すことにこだわりがありますが、同時に難しいところだとも感じています。
「身内ではなく知らない人だからこそ相談できる」という対面で話すことの良さも視野に入れながら、具体的な方針を決めていきたいですね。
また、館野さんは『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』の役割の一つでもある「悩みを抱えている人にマッチしたセルフヘルプグループの情報提供を行う“仲介支援”もより充実させていきたい」と語ります。
お話しを通して相手が持つ悩みに応じた適切なセルフヘルプグループをつなげることに加え、マッチングした際のギャップが少なくなるようしっかりと話し合いを進めていきたいです。
最後に
池上さんと舘野さんは、“なかなか周りには言えない悩みを抱えている人”にこそ『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』に足を運んでほしいと言います。
障がいの有無に関わらず、自分のモヤモヤを吐き出したい人に来ていただきたいですね。誰にも言えないような悩みなどをお持ちでしたら、ぜひ気軽にお話ししに来てください。話してくださった内容は絶対に外部に漏らすようなことはありませんので、そこは本当に安心してほしいです。
誰にもジャッジされないので本音で自分らしく話ができ、誰かの話に静かに耳を傾ける空間が、いまの自分の支えになっていますね。
取材を経て、『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』での出会いは誰かにとっての居場所になることもあれば、互いに支え合う空間にもなっていると感じました。
また、最後に館野さんから、「聴覚や視覚に障がいをお持ちの方と関わる際、手話や点字を覚えたり筆談で会話したりすることで、自分のコミュニケーションの幅も広がり深まった」という話を聞き、さまざまな悩みを持つ方と関わる中で、互いに歩み寄りながら、対話を通して分かち合い、前に進んでいるのだと強く感じました 。
新たに動き始めた『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』の今後の活躍に、ぜひご注目ください!

『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』に関する詳しい情報は以下まで。まずはお話だけでも聞いてみませんか?
『とちぎセルフヘルプ情報支援センター』
住所:宇都宮市まちづくりセンターまちぴあ(栃木県宇都宮市元今泉5丁目9−7)
メール:tshc@live.jp
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