おいしい農産物を活かしたタルトを、農園で。“旅するタルト役人”しらとりーぬさんに密着!
じゃん
じゃじゃん
これ、なんだか分かりますか?
そう、梨を贅沢に使ったタルトです。
トッピングされているのは、ブラックオリーブとバルサミコ酢のジュレ。
ビネガーの優しい酸味が梨のみずみずしい甘さを引き立てています。オリーブの食感もアクセントになっていて、これは新しい組み合わせ…!
こちらのタルトをつくったのは、“旅するタルト役人”こと、しらとりーぬさん。
実はしらとりーぬさん、本職は農林水産省の職員で、現在は出向のため栃木県庁で働いています。「いちご王国・栃木」のプロモーションを行っているため、仕事とリンクするという意味でも合間を縫って栃木県の農園でタルトづくりを行っているのだとか(しらとりーぬさんのネクタイとマスクにもご注目🍓)。
Instagramを覗くと、そこには珍しいタルトから王道のタルトまでたくさん…!
甘いものに目がないライター森谷は、“旅するタルト役人”というワードと栃木県の農作物を活かした数々のおいしそうなタルトたちに見事に心を奪われてしまいました。「しらとりーぬさんに会ってみたい!」「タルトを味わってみたい!」ということで、実際にタルトづくりの様子を伺ってみることに。
プロフィール
栃木県農政部経済流通課 課長 白鳥 幹久(しらとり みきひさ)さん(愛称:しらとりーぬ)
宮城県仙台市生まれ。大学から上京し、09年に農林水産省に就職。21年より、栃木県農政部経済流通課長として県産農産物のブランド力向上のための取組、「いちご王国・栃木」のプロモーション等を担当。週末は、趣味のお菓子づくり経験を生かして県内農園を巡ってオリジナルタルトをその場でつくる「旅するタルト役人 しらとりーぬ」として活動中。
〈各種SNSはこちら〉Instagram、Twitter、note
今回の現場は、9種類もの梨を販売している阿部梨園さん(タルトづくりは2022年11月12日(土)14:00~行われました)。みずみずしく甘い大玉梨が人気で、ご自宅用にはもちろん、お土産やギフトとして購入される方も多くいます。
本日は、そんな阿部梨園さんの梨をたっぷりと使ったタルトをつくるそう。楽しみ…!
では、はじめていきます!今回はタルトレット1も用意してますよ~
ひとつのタルトで色々な種類の梨を使うんですか?
はい!味の違いを楽んでもらうために3種類の梨を使います。
この道具、全部自前ですか?もはやお店が開けるのでは…?というほど豊富ですね。
基本的に農園の横でつくっているので、「なんでも持っていかないと!」という感じでついつい揃えてしまったんです(笑)
まずは生クリームに砂糖を加えて泡立てた“クレーム・シャンティー”2をつくっていきます。以前は家で泡立ててから持ってきてたんですけど、泡って時間の経過とともに消えてしまうので、こうして現地で泡立てるようにしています。一般的には電動ミキサーを使うんですけど、コードレスだとパワーが足りなくて。
腕の筋肉、すごいですね!
タルトのために筋トレしております。“すべてはタルトのために”(キリッ)
さすが“タルト役人”というだけあって、タルトにかける想いがアツい…
生地など、仕込みはご自宅で?
そうですね。昨晩生地をつくって、今日は5:00に起きて準備しました。生地は大体1日寝かせてから焼くことが多いので、昨日は飲み屋に行きたい気持ちをぐっとこらえて、「違う!俺はタルトの生地を仕込まなければいけないんだ…!」という強い意志でつくりました(笑)
がんばったのですね。それにしても、早起きじゃないですか…!
焼き上げ含めて、トータルで4~5時間ほどかかるんです。
しらとりーぬさんの強い腕力であっさりと“クレーム・ディプロマット”3が完成!これがタルトの土台に塗るクリームになります。
続いては、生地とクリームの間に塗る“アンビバージュ”4をつくっていきます。今回は、梨の甘さを引き立てるさわやかなゆずを使用。梨やクリームが甘めなので、柑橘系のアンビバージュで酸味をプラスして全体のバランスを取ることが大切なのだとか。
実は、“アンビバージュはタルトそのもの”と言っても過言ではないんです。ここにどんな素材を持ってくるかによって上に乗っている農作物が引き立つかどうか、タルト全体のバランスが取れるかどうかが決まってくるので。
そこのセンスが大切なんですね。
アンビバージュそのものが目立つわけではないしおいしいというわけでもないけど、『少しの工夫で周りを引き立てる』という役割が役人の仕事と似ていて。ないと味がぼやけるけど、間に入っているもののセンスがいいと「おお!引き立ってる!」って思うんですよね。
素材の味をより引き立たせる役割、とっても重要ですね。アンビバージュ、深いぞ…
続いて、本日の主役である梨を切っていきます。可愛らしさを表現するため星型にくり抜いてみたそうで…可愛い…!
栃木県のオリジナル品種『にっこり』は大きさが特徴なので、こうした工夫ができるんです。ちょっと贅沢な使い方しちゃったかな…
食べやすいようにと小ぶりに切った梨を盛り付け、ブラックオリーブとバルサミコ酢のジュレをトッピングしたら、3種の梨を贅沢に使用したタルトが完成!色合いもなんだか秋っぽい。
いただく前に、しらとりーぬさんのご要望でTikTokの撮影に挑戦!SNSでの発信も積極的に行っていきたいとのことだったのですが、ただただ楽しそうな動画が撮れちゃいました。
※ライター森谷は踊りが苦手なため撮影側で参加。次回こそは…!
撮影終了後、早速しらとりーぬさんが淹れてくれた紅茶と珈琲で「いただきま~す!」
県産小麦(笠原産業さんの中力粉(麦のかほり)と強力粉(ゆめのかおり))を100%使用したサクサクのタルト生地がまろやかなクリームと絶妙にマッチ。3種類ものフレッシュな梨をたっぷり使っているので、様々な味わいと食感が楽しい…!
ふわっと鼻に抜けるゆずの香りもこれまたよかった…!ゆずのアンビバージュのお陰で、重たくなくさっぱりとした後味に。アンビバージュ、最高です。今日でしっかり覚えました、アンビバージュ。
「ビネガーと梨のマリアージュ、いいね!」と農家さんも大喜び。
農家さんと雑談を楽しみながら、新鮮な農作物を使ったタルトを味わい、農園でまったりとした時間を過ごす。これが本当に至福でした。
こうして農家さんの喜ぶ顔が見れることもタルトづくりの醍醐味ですね。
そうなんです。農家さんは基本的に作ったら出荷してしまうので、新鮮な農作物をその場で食べることって実は少ないんですよ。なので、我々と農家さんが一緒に食べて「めちゃくちゃおいしいね!」って言い合うところに意義を感じています。
たまに「このタルト、売ればいいのに!」と言われるんですが、もちろん職業柄商売ができないということもありますし、売るとなると多くの人に食べてもらうためになるべく原価を抑える努力をすることになります。例えば、「梨はなるべく少なくしよう」「県産小麦粉は輸入小麦粉にしよう」「バターはマーガリンにしよう」「フレッシュクリームは植物性ホイップクリームにしよう」…という具合に。そうなると、急にときめきが減っていく感じがして(苦笑)。
それよりも、その瞬間の楽しさや感動を最大にしたいという想いがあるので、そういうお金に変えられない価値が(農園でのタルトづくりには)あると思うんですよね。こうしてこんなに贅沢なタルトをつくることができたのも、阿部さんの梨のご提供があってこそなので。
梨の加工品は少ないので、こういった実例を発信していただけたら消費拡大にもつながると思うんです。加工品が少ないことは梨屋としてコンプレックスだったんですけど、こんなに素敵なタルトをつくってもらえて嬉しいですね、本当に。いっぱい(梨の)種類つくっておいてよかった~!
農園でつくっているからこそ、新鮮な農作物がその場でたくさん手に入るんですよ。中々ないですよね、そんなこと。
新鮮な農作物をその場で味わえてしまうということがなにより嬉しいですね。しらとりーぬさんは、どうして農園でタルトづくりを始めようと思ったんですか?
実は、きっかけは阿部さんで。昨年度、阿部さんにいただいた梨を使ったタルトを(阿部梨園に)持っていったらめちゃめちゃ喜んでもらえたんです。このとき、「うお!仕事より喜ばれてる!自分が進むべき道ってもしかしてここだったかも!?」って思って(笑)
いただいた日の休憩時間、めちゃくちゃ盛り上がりました(笑)
自宅でタルトをつくることもあったんですけど、一人だと趣味の延長という感じでちょっと適当になっちゃって。でも、「誰かに食べてもらうために農園でつくろう」と思ったときから真面目に考えるようになったんです。それで、『お手軽にぱぱっとできるレシピ』ではなく、プロ向けに書かれた『面倒だけどおいしいレシピ』を知り合い経由で教えてもらって、そのレシピをもとに今はつくっています。
農業には、農作物はもちろん、フィールドに触れる楽しみや魅力があるような気がしていて。来ないと分からないことやここでしか楽しめない味ってすごくたくさんあると思うので、それらをタルトを通して発信していきたいですね。
たしかに、ここに来たからこそ農家さんとお話できて、今すごく楽しいです…!これまではどんな農園でタルトづくりを?
上三川町のいちご農家さんや鹿沼市のニラ農家さん、大田原市のアスパラガス農家さんに伺いましたね。次は宇都宮市のレモン農家さんに伺う予定なんですけど、「農作物の旨味をどう活かすか」、毎回悩むけど楽しいです。
ニラ農家さんということは、ニラのタルトを?
結構おいしいんですよ。ヨーグルトベースのクリームに茹でたニラを乗せて、蜂蜜のジュレをかけました。組み合わせには毎回悩みますが、全て一から考えてつくっているからこそどれも思い入れがありますね。
どのタルトにもこだわりと想いがたくさん詰まっているんですね!どんな流れで農家さんとつながってタルトづくりを行うのでしょうか。
農家さんの口コミなどで「○○さんが興味持ってるよ」「面白い取り組みだね」とお声掛けいただくことがあって、そこから話が盛り上がって「じゃあ一緒にやりましょう!」という感じが多いですね。「どんな人に向けてどんな風に行うか」「どのくらい人を呼ぶか」などは農家さんと話し合いながら決めています。一緒に考えることで、楽しく無理のない範囲で関係性が続けられるんですよね。自分がやりたいことをやるよりも、農家さんと形にする方がやっぱり楽しいですしね。
それと、農業のPRが本職なんですが、タルトづくりをきっかけに農家さんや加工業者さんの話が理解できるようになるんですよ。例えば、お菓子には酸味があって小ぶりなフルーツが実は合うんだよね、とか。
「農家さんと一緒に」というスタンス、面白いものが生まれそうでいいですね!それに、タルトづくりがそんな風に本職に活きているなんて…!基本的には栃木県内の農家さんと?
そうですね。せっかく栃木県にいるからこそ、ここでしかできないことをやりたいなと。栃木県には当たり前のように新鮮な農作物が身近にあるけれど、それってすごいことじゃないですか。農家さんから直接農作物を購入できる素晴らしさをもっと知ってほしいですね。
でも、ご要望があれば県外に伺うこともありますよ。山梨県や茨城県にも行きました。そうそう、最近、宮崎県のパパイヤ農家さんからお声掛けがあって。「宮崎県ですか!?」みたいな。でもちょっと面白そうだから打ち合わせしましょうっていう話になってます(笑)
「『こんな食べ方があるんだ』と驚いてもらえたら嬉しいし、なにより『おいしいですね』と言われて『素材が最高なんです!』『作り手がいいですからね!』っていうやり取りをしたくてタルトをつくっているようなものですね(笑)」
にこやかに笑うしらとりーぬさんの言葉の節々には、「栃木県のおいしい農作物の味を知ってほしい」という確固たる想いが透けて見えました。
農園で味わう農家さんの愛情がたっぷり詰まったタルト、はまりそう…!
味はもちろんのこと、“農家さんとの距離が縮まるほんわかした場をつくることができる”というタルトが持つ無限の可能性を再認識しました。アットホームな空気感に触れ、イベント終了時には「もっと地元の農家さんと話してみたい」という想いが図らずとも膨らんでしまいました。タルトを通じて「阿部梨園さんの梨は本当においしい」ということを知れたことも、本日の大きな収穫のひとつです。
現在は、月に1度の開催を目標にしているそう。「色々な農作物にチャレンジしてみたい」とのことでしたので、「うちでもここでしか味わえないタルトを…!」と興味が湧いた農家さんは、ぜひお問い合わせを。
しらとりーぬさんのあたたかで面白い人柄に場が和むこと間違いなしです◎
協力農家さん募集中!
少しでも気になった方は、以下のボタンよりお気軽にご連絡・お問い合わせください(旅するタルト役人 しらとりーぬ宛)。