孤独を抱えて働く人が増える社会で、生きていくにはどうしたらいい?『コワーキングスペースáret[アレット]』に行ってきました!
目次
東武宇都宮駅から徒歩15分。
光琳寺さんの正面を左に曲がると、飛び出し坊やと砂利道が見えてきます。
近くまで行くとáretの文字が!表札の右側に見える建物が、今回ご紹介する『コワーキングスペースáret[アレット]』です。
お隣の光琳寺の住職さんがつくった場所で、名前をひっくり返すと『tera(寺)』となる仕掛けが隠れています。
ユニークな名前を持つáretとは、一体どんなところなのでしょうか?
áretってどんな場所?
白いタイルへ足を踏み入れ、進んでいくとエントランスが見えます。
ドアを開けると、目の前に受付が現れました。黒を基調とした空間がスタイリッシュ…! 磨りガラスの上には『áret』と印字されています。
早速ドロップイン(一時利用)で利用していきます!
áretの管理・運営を行うとちぎユースサポーターズネットワークのスタッフ、中山 裕貴(なかやま ひろき)さんに応対していただきました。
ドロップインでは利用登録の紙を渡されるので、『利用日・入室時間・所属・名前』を書いていきます。退室時間は利用終了時に書くので、受付時には書かずにお返しして受付完了です。
受付の場所にはFree WiFiの案内やフリーペーパー等がずらりと並んでいます。フリーペーパーは観光情報や支援案内などといった栃木県に関する情報が多いので、新しい発見ができるかも…?
ワークスペース利用では、ドロップイン以外にもマンスリー1、ナイトタイムマンスリー2、スチューデントマンスリー3があります。
ドロップイン以外のプランは月単位の利用となっているので、まずはドロップインでの利用がおすすめです☺︎
下記に詳細を載せますのでチェックしてみてくださいね!
ご利用案内
中山さんによると、社会人や学生の一人利用がとても多いらしく、利用目的はテレワークやリモート会議、勉強と様々だそうです。
そしてáretの魅力は”居心地の良さ”とのこと。どのような部分が居心地を良くしているのか、見つけていきましょう!
エントランスを左側に進むと……
広々とした開放的なキッチンとワークスペースが現れます!
ワークスペース
受付のスタイリッシュな黒の空間と打って変わって白を基調とした空間です✨
白い壁に木の柱や観葉植物が添えられていて爽やか…!
窓が多いので日当たりがよく、自然光がほどよく差し込んでいます。
「明るくていいなあ」と眺めていると、椅子が積まれた場所に張り紙を発見しました。
椅子の色で集中度を分けているそうです。
隣のキッチンにはエスプレッソマシーンが…!
右側の木箱に150円を入れて、アイスコーヒーをいただきました☺︎
お好みのコーヒーカプセルをセットして、ボタンを押し、レバーを引くとコーヒーが抽出されます。
エスプレッソマシーンから抽出されていくコーヒーを眺めるのもなんだか楽しい…!出来上がったコーヒーもとても美味しかったです。
エスプレッソマシーンの下には冷蔵庫と冷凍庫、横にはトースターや炊飯器、電子レンジ、やかんなどキッチン家電がずらりと並んでいます。
引き出しにはスプーンやコップなども収納されていました。こちらも自由に利用が出来ます👏
キッチンを見て回ったところで、気を取り直してワークスペースでパソコン作業に取り掛かります。
微かに誰かの話し声が聞こえてくるのですが、「話し声が雑音となって集中できない」こともなく、むしろ誰かの存在をほんの少し感じられて集中しやすい環境となっています。
「静かすぎると逆に集中出来ない」「人の気配が感じられる空間の方が仕事や勉強がしやすい」という方にはとてもハマりそうです。
写真に写っている奥の白い棚の中には、延長コードやハブなどのアクセサリ類が収納されているので「充電が切れた」「変換ハブを忘れた」という時にも対応可能となっています。
また、有料になりますがプロジェクターがあるため、休日にáretを貸し切って映画を見ることも出来ます。コロナウイルスが流行する前までは映画鑑賞会が定期的に開催されていたりしました。
他にも機材が揃っているのでリモート会議はもちろん、ライブ配信等もできちゃいます🙌
外スペース
晴れている時は外のスペースでの作業もおすすめです☀︎
受付のドア、またはワークスペース内の扉から外に出ることが出来ます!ウッドデッキと太陽の光は相性ピッタリですね✨
áretの近くには美味しいご飯屋さんやカフェがあるので、そこで買ってきた飲み物や食べ物をここで食べるだけでピクニック感覚が味わえて良さそうです♪
集中スペース
「とにかく集中をして作業を進めたい」なんて時には、ワークスペース内の黒い板で囲まれた集中スペースがおすすめです。黒い板によって周りのものが見えなくなるので、目の前のことに集中しやすくなります。
和室
そして、一階の奥には和室があります。畳が敷かれているのでリラックスできます。作業はもちろん、個室なのでリモート会議にもピッタリです。(※利用には予約が必要です)
お洒落な空間でありつつも、木や観葉植物などで緑も感じられ落ち着きます。「少人数でじっくり話し合いたい」時に良さそうです。
今回お話を伺ったのは…
「居心地が良い」と思える工夫がいたるところに施されているáret。一体どのような想いからつくられたのでしょうか?
áretのオーナー、光琳寺住職の井上 広法(いのうえ こうぼう)さんにお話を伺いました。
浄土宗光琳寺住職 /『コワーキングスペースáret[アレット]』企画・立案・オーナー
井上 広法 (いのうえ こうぼう)さん
1979年宇都宮市生まれ。創建600年の光琳寺を拠点にしながら「ともに、いきぬく」をミッションに、ひとづくり・縁づくり・まちづくりを目指している。中学卒業後、高校へ進学せず一年間ひきこもるが、その後、高校へ進学。佛教大学で浄土学を、東京学芸大学で臨床心理学を専攻。仏教と科学の両面から人間の心のメカニズムについて探求している。2012年には僧侶に人生相談ができるWebサイト「hasunoha」のリリース、2014年には史上初のお坊さんバラエティ番組「ぶっちゃけ寺」の立ち上げとゴールデン進出に貢献した。また2016年にマインドフルネスをベースにしたビジネスパーソン向けプログラム「cocokuri」のスタートアップと同企画を展開するベンチャー企業を設立した。2018年にご先祖様を見える化するおもちゃ「いのちの積み木®︎」の開発、2019年にコワーキングスペース「áret」のオープンなど仏教への入り口を数多くデザインしている。
「どうやって生きたらいいのかわからない」から生まれた「ともに働く場所」
áretを利用してみたのですが、すごく素敵な空間ですね…! 井上さんは、どのような想いからáretをつくることに?
逆に聞いちゃいますが、森田さんは”お寺”に対してどのようなイメージを持っていますか?
お通夜やお葬式など人が死んでしまったときに利用する…というイメージ?
でも実は、お経の中には「人が死んだら仏教が必要だ」とは書いていないんです。仏教は「生きるためにはどうしたらいいのか」を考える、心のメカニズムです。
江戸時代のお寺は、寺子屋や近所の人たちの井戸端会議の場として使われていました。でも今ではその風習がなくなりつつあり、残ったものが死んだ人のお葬式や供養などの法要です。それが勿体無いと思ったことがまず一つ。
かつてのお寺にそんな役割があったとは…!
あとは、「ともに働く場所をつくろう」と思ったからです。
働く時間って人生の中でとても長いですよね。1日8時間の労働を週に5日、それを定年まで続けていく。僕らの親世代は『終身雇用』という制度があって、転職せずに人生を生き抜くことができていました。でも近頃は人の寿命よりも会社の寿命のほうが短くて、一生涯を一つの会社で働くことが少なくなりました。
それで「会社が存続するかわからない」「働き方が不安定」「生き甲斐がない」と生き方が不安定となり、頑張っている人が突然”人生”のステージから落ちてしまうこともあるんです。そんな人のために何かできることはないかと考えて、「ともに働く場所」をつくろうと思いました。
ということは、「心の拠り所をつくろうとした」ということでしょうか?
”心の拠り所”というより、”居場所”という言葉の方がしっくりきますね。
違った角度から見ると、働き方をアップデートしたい。今は、仕事以外のコミュニケーションを取ったことがないような孤独に働く人が増えています。現代の社会には様々な問題がありますが、共通していることは孤独感や働くことの無意味さを感じていることだと思うんです。だから孤独に働く”孤ワーカー”から一緒に働く”コワーカー”に変換できるようにしたいんです。
一緒に働く”コワーカー”! なるほど…! でも、どうして “孤独感”や”働くことの無意味さ”に注目することが出来たのですか?
僕が運営している“hasunoha”というお坊さんが悩みに応えてくれるサイトに寄せられた相談からです。今朝届いたものだと、「人生に希望が持てない」「恋愛依存症」「毎日不安で死にたい」とか。
どれも気軽に他人に話せないような心の内にある悩みですね…。hasunohaには、普段どれくらいの相談が寄せられているのですか?
毎日多くの相談が寄せられています。設立したばかりの2012年は年配の方からのご相談が多かったのですが、2015年には10〜20代の相談が多くなってきました。10~20代の相談は、突き詰めれば「死にたい」なんです。でもその内容もさまざまで、「彼氏に振られたから死にたい」「親と喧嘩したから死にたい」とか。
本当に死ぬしかないと思っている人はhasunohaやいのちの電話には相談しないんですよ。ホームセンターで煉炭やロープを買いに行くんです。「辛いけれど、本当は死にたくない」って思っているからこそ相談をするんです。
「死にたい」と相談している人たちは、実は「助けてほしい」と手を伸ばしているということでしょうか…?
そうですね。それが上手く変換できないから「死にたい」になっているのかなと個人的に思います。「死にたい」って言っている人の本音は「どうやって生きたらいいのか分からない」じゃないかなと。
「助けて」を上手く変換できない…なるほど。
そんな孤独を抱えた人たちが、目の輝きを取り戻すためにはどうすればいいか考えていました。áretを設立する前にも、ビジネスマン向けの生き方や幸せについて考えるワークショップや研修を開催したこともあります。でも1~2回のワークショップじゃ人はなかなか変われない。だからまずは場づくりが必要だと思ったんです。
最初に教えていただいた仏教の心のメカニズム、「生きるためにはどうしたらいいのか」から働く人の居場所としてáretが生まれたんですね…!
人とのつながりが生まれるコワーキングスペース
áretを設立したときにこだわったポイントはありますか?
なんでもできるように壁を白色にしたことです。写真を貼って展示会を開催したり、プロジェクターを設置して映画鑑賞会をしたり。「どんな空間にも染められるように」と拡張性を重視しました。
でも全部白だと集中できなくなるので、天井に木を見せたり出窓をつけたりしています。机にもこだわりがあって、横幅はバラバラですが奥行きを揃えていて、パソコンを開いたままでも作業ができる長さにしています。
言われてみると確かに、パソコンとノートを置いているのにすごくスペースに余裕があります!
あとはキッチンを中心に置いたことです。僕らが目指しているものはただの職場やコワーキングスペースじゃない。人と人とがつながるのは、なんだかんだで食事じゃないですか。
ご飯を一緒に食べて「美味しいね」って言葉をきっかけに、会話が生まれたり、広がったから話せるようになったことって今まででたくさんあります! そっか、これがつながり…。
そういえばáretでは時々、カレー会などのご飯を一緒に食べるイベントも実施されていますよね。このようなイベントも人とのつながりを意識して生まれたのですか?
そうですね! ランチ会とかピザ会とか。今は新型コロナウイルスの影響で全然できていないんですけどね。食事を一緒に取る機会を増やすたびに徐々に家族みたいになってきて、ただの知り合いじゃなくなるんですよ。
だからつながりを感じながら仕事や勉強を頑張ってもらえたら嬉しいですね。でもあくまでコワーキングスペースなので、バシッと集中したい時は集中できるようなブースもあります。
”つながりを感じられる”ということは他のコワーキングスペースにはない特徴ですね。ランチ会やピザ会のようなご飯会以外にも、映画鑑賞会などのイベントもありますが、こちらも人とのつながりを意識しているのでしょうか?
それも目的としてはあるのですが、áretのみんなに人としての成長をしてほしくて開催しています。例えば映画鑑賞会だと、SDGsのカテゴリーで映画を検索できる『UNITED PEOPLE』という配給会社の映画を上映しています。
以前は飢餓のカテゴリーにある『0円キッチン』4を2020年2月3日に上映しました。食料廃棄をテーマにした映画ですね。上映後にみんなで恵方巻をつくったんです。2月3日に上映したのも理由があって、恵方巻って毎年大量廃棄が出ているんですよ。
恵方巻きの廃棄…2月が近づくとニュースでもよく取り上げられていますよね。
そうなんです。それで、恵方巻きって海苔にご飯と具を乗せた食べ物だからわざわざ買わなくてもいいんじゃないかと思って、みんなで恵方巻きをつくるワークショップを行いました。その後に食料廃棄に関する映画『0円キッチン』を上映したんです。
“何か×何か”の掛け算をしながら映画会を月に1回程度開催して、ソーシャルマインドを持った人たちをつなぎ止めるという狙いがあります。
ただ映画を流すだけでなく、掛け算をして学びが得られるように仕掛けているんですね! 映画鑑賞会は新型コロナウイルスが収束したらまた再開されるのですか?
もちろんです! ただ、年間のサブスクリプションなのである程度目処がたたないと難しいですね。
そうですね。áretにいる人を紹介することで、どんな人がいるのかがわかりやすくなるかなと。そこからつながりが広がればいいなと考えています。
どんな人がいるかがわかると安心感や親しみが生まれて素敵ですね! áretがオープンして、利用者さん達には多くのつながりが生まれたと思うのですが、井上さん自身にも人とのつながりは生まれましたか?
それはたくさんありますよ! 特に運営を任せているとちぎユースサポーターズネットワーク5 のメンバーや2階に入居しているPLAYWORK6 や つばめソリューション7 のみんなと関わるようになったことで、色々な可能性が見えてきました。
可能性が実現したこともあるので「áretがあればなんでもできる」という気持ちもありますし、áretを拠点にして次の事業をしようとも考えています。
áretでキャリアチェンジのチャンスを掴む
áretでこれから新しく挑戦してみたいことはありますか?
30〜40代の人たちが学び直しできる機会(勉強会)をつくりたいなと考えています。なぜかというと、昔は会社員が本職以外の勉強をしていると、会社の仲間から「転職考えてるの?」と変人扱いされてしまっていたそうなんです。
でも今の社会の構造からすると、転職をあえてしないと自分も会社も潰れてしまう。だからこそ30〜40代が学び直しのタイミングで、その年齢を超えるとキャリアチェンジが難しくなるんですよ。
キャリアチェンジを考えるならば、学び直しが必要になってきます。今まで僕は都内で勉強会を開いて講師やキャリアコーディネートをしていたので、講師をしてくれる人たちのネットワークを持ってます。
でも新型コロナウイルスの影響で講師も呼べないし、オンラインでやっても味気ない。だからコロナウイルスが落ち着いたらの話になりますが、仕事終わりに定期的にáretに来てもらって、2時間くらいの勉強会を少人数で、一流の講師で取り囲んでやりたいですね。
面白そうですね!
実はáretが出来る前、光琳寺でも何回か開催しているんですよ。完全に会員制サービスで、告知はしません。一人当たりの参加費は高いですが、その代わり参加人数はとても少なくしているので講師と仲良くなりやすいし、勉強もガンガン出来ます。“ディープスクール”と言うのですが、áretでも同じように開催したいと思っています。
対面でみっちりと社会人の学び直しのための勉強ができる場所って栃木県だとなかなか見つからないので、すごく貴重ですね。いいなあ…
お話を伺うまで、áretはお寺が作ったコワーキングスペースとは聞いていたものの、お寺のイメージとは結びつかないな、と思っていました。
でも井上さんのお話を聞けば聞くほど、仏教の「生きていくにはどうしたらいいのか」という考え方から生まれた場所なんだなと伝わってきました。
áretにいて感じた居心地の良さも、このような考え方がもとにあるからこそ、感じ取れるのかもしれません。
áretではお昼の時間にワークスペースでお弁当を広げていたり、外スペースで雑談が盛り上がっていたりと、会話をされている様子が多く見受けられます。
現代のお寺のイメージ(法要で利用する場所)からはひっくり返っていても、江戸時代のお寺のように、誰かの居場所となる役割は抑えている。名前の通り、寺(tera)がひっくり返っています! まさにáret…!
知れば知るほど魅力的なáret。駅から少し離れた場所に位置していますが、思わぬ居心地の良さに「いい隠れ家を見つけちゃった!」なんて気持ちにさせてくれます。
「家と職場(学校)との往復でなんだか味気ない」「リモートワークにちょうどいい場所がほしい」「落ち着いた場所で癒されながら作業したい」という方など、どんな方にもおすすめしたい場所です。
みなさんもぜひ、『コワーキングスペースáret[アレット]』を日常に取り入れてみてはいかがでしょうか?
各種情報
áretホームページ: https://áret.house/
問い合わせ先: info@áret.house
住所: 〒320-0862 栃木県宇都宮市西原1丁目3-4
Instagram: https://www.instagram.com/aret_tera/
Facebook: https://www.facebook.com/aret2019/
営業時間: 平日10:00ー21:00 土日祝休み