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「1000年続く栃木県の郷土料理を遺したい!」食べやすく現代風にアレンジした『ご飯にかけるしもつかれ』とは?

みなさんは、『しもつかれ』を知っていますか?

しもつかれ(写真:写真AC)

『しもつかれ』とは、大根や人参、大豆や鮭の頭、油揚げや酒粕などを煮込んで作る、栃木県を代表する郷土料理。正月に食べた塩引き鮭の頭や節分に煎った福豆の残りの大豆など、残り物を使って作られる『サステナブルな料理』です。

旧暦2月初午(はつうま)に赤飯と共に稲荷神社に供える『行事食』として作られていた歴史があり、なんと1000年も前から食べられていたそう…!

『栄養価の高い家庭料理』としても親しまれており、「7軒の家のしもつかれを食べると病気にならない」という言い伝えがあるほど。酒粕の量や味の濃さ、入っている具材など、家庭によってレシピもさまざまで、栃木県では給食に登場することも珍しくありません。

そんな伝統的な郷土料理『しもつかれ』ですが、鮭の頭や酒粕を煮込んだ際の独特の味や匂い、どろっとした見た目に苦手意識を感じる方も少なくないのが事実。

私自身、給食のしもつかれの味がどうも苦手で、大人になった今でも積極的に食べた記憶がないほど…(汗)

そんなしもつかれのマイナスイメージを取り除き、「栃木県民に伝統的な郷土料理として誇りに思ってほしい」「しもつかれを美味しく食べてほしい」「1000年続く歴史を途絶えさせたくない」という想いのもと、栃木県の大学生が立ち上がりました。

4名の大学生が行うしもつかれを存続させる取り組みは、昨年開催された理想の栃木像を描く『ミライらぼ』というプログラムから始まり、現在は有志で行っています。

そして、食べやすく現代風にアレンジした『ご飯にかけるしもつかれ』を開発し、2025年2月から600個限定でインターネットや各種店舗などで販売中とのこと。

『ご飯にかけるしもつかれ』(提供:チームメンバーのみなさん)

そこで今回は、リーダーの石井 優衣(いしい ゆい)さん、料理担当の石川 湧也(いしかわ ゆうや)さん、会計担当の臼井 彩乃(うすい あやの)さん、広報担当の篠原 葵(しのはら あおい)さんに、『ご飯にかけるしもつかれ』についてやプロジェクトを始めた経緯など、気になるお話を伺ってきました!

臼井 彩乃(うすい あやの)さん(左上)、石川 湧也(いしかわ ゆうや)さん(右上)、石井 優衣(いしい ゆい)さん(左下)、篠原 葵(しのはら あおい)さん(右下)(提供:チームメンバーのみなさん)

1000年もの歴史がある郷土料理を守るために…

どうしてしもつかれを存続させる取り組みを始めようと思ったのでしょうか?

昨年『ミライらぼ』に参加して、食と農業に関心がある『食と農チーム』に入りました。そこでテーマを決める際に、「しもつかれって認知度はあるけど、みんながみんな好きなわけじゃないよね」という話になったんです。そこで、「マイナスなイメージを変えたい」「誇りに思えるような、好きと言えるような郷土料理にしたい」と思い、しもつかれに焦点を当てて活動することにしました。

おばあちゃんはしもつかれを作るけど、お母さんはしもつかれを作らない。昔は伝統的な家庭料理だったけど、今はそうじゃない。そんな風に代々作らない家庭が増えていったらしもつかれが存続しないんじゃないかと、危機感を覚えたんです。

栃木県の伝統料理は、しもつかれ以外にもたくさんあります。でも、多くの人に知られているのは圧倒的にしもつかれで。そう思った時、「しもつかれが消えたら栃木県の伝統料理がなくなってしまうんじゃないか…」と思ったんです。

そして「地元に何を遺せるか」と考えた時に、“しもつかれを絶やさないこと”に意味があると思って。長い歴史をゼロから創ることはかなり難しいので、廃れさせるのはすごく勿体ないことだし、「しもつかれを現代に合う形に加工すれば続いていくんじゃないか」と。

私はもともと地元愛が強いわけではなかったのですが、石井さんに誘われて活動する中で、しもつかれの文化や歴史を知るうちに、「小さい頃から身近にあったしもつかれがなくなるのは良くないことなんじゃないか」と思うようになったんです。

なるほど。たしかに1000年もの歴史がある伝統料理がなくなるって、県民として危機感を覚えるかも…なんだか寂しくもありますよね。遺していくために、みなさんはどんなことを?

しもつかれについて調べるうちに、栃木県の観光資産としてアップデートする『しもつかれブランド会議』さんや、しもつかれを遺したい人が集うお囃子団体『しもつか連』さん、しもつかれをモチーフに工芸品を制作する方など、伝統を遺すために奮闘する方々の存在を知りました。

その時に「こんなに広がりがある食べ物は他にない」と感動し、「しもつかれを後世に遺したい」という想いにとても共感して

共感したという『しもつかれブランド会議』が実現したい世界観(提供:チームメンバーのみなさん)

そこで「しもつかれを使ったアレンジ料理を作ろう」と思い、栃木県を中心とした一週間のイベント『しもつかれウィーク』で、しもつかれを使ったコロッケを販売しました

しもつかれを使ったコロッケ!

「しもつかれを違う形にしたい」と考えていた時に「洋食が良い」という情報をいただいたので、試行錯誤した結果、しもつかれを使ってコロッケを作ることにしたんです。具材としてまとめてしまえば見た目が美味しそうなので。水っぽくならないように水分量を調整しつつ、しもつかれの風味をしっかり残すことにこだわりました

しもつかれを使いコロッケを作る石井さん(提供:チームメンバーのみなさん)

美味しそう〜!

ただですね…。しもつかれを違う形にアレンジすることはできたのですが、「本来のしもつかれは果たして食べてもらえるのか?」と疑問に思って

しもつかれのアレンジ料理を好いてくれても、本来のしもつかれを知った時に「こんな感じなんだ、じゃあいいや」と思われてしまっては意味がない。だったら「多くの人に好まれる“食べやすいしもつかれ”を作ろう」と思いました。

しもつかれが好きな人はアレンジ料理を作ったり食べたりするけど、苦手な人やそもそも知らない人はそうじゃないんじゃないか、と思って。そこで今年度掲げた目標は、“多くの人に本来のしもつかれを食べてもらう”こと。

本来のしもつかれを好きになればアレンジ料理に派生できるかもしれないし、そもそも今はしもつかれを食べる機会が少ないのでは?と。味や匂い、給食のトラウマなどで、しもつかれに苦手意識を持っている方って、実はかなり多いんです

保存食でもあるしもつかれには、たくさんの酒粕が入っていることも。まさに日本の“もったいない”文化の象徴!(提供:チームメンバーのみなさん)

たしかに、しもつかれに“食べやすさ”“美味しさ”を感じたことはあまりないかも…

そうですよね。実は僕も元々得意ではなくて…(笑)僕以外にも、しもつかれに苦手意識を持っているメンバーはやっぱりいます。そんな自分たちだからこそ「『苦手だったけどこれは美味しい!』と思えるしもつかれが作れるんじゃないか?」と思ったんです。

そこで誕生した商品が、『ご飯にかけるしもつかれ』!(提供:チームメンバーのみなさん)

入っているのは、メンバーの臼井さんの祖父(農家)の畑で採れた大根と人参、ヤシオマス、油揚げ、大豆、酒粕、塩、醤油。「材料は全て栃木県産のものを使用する」というこだわりが詰まっており、無添加かつ常温で半年ほど保存可能です。ご飯に合うように水分量を調整し、具材の味や食感がしっかりと楽しめるように工夫。少し濃いめの味付けで作られています。

昨年の夏から試作を重ねて、『しもつかれブランド会議』さん、『株式会社ユーユーワールド』さん、『株式会社Cooking&Glow』さんのご協力を得ながら、やっと納得のいく美味しいしもつかれができました

こだわったポイントは、なによりも“食べやすさ”です。代々続く作り方だと鮭の頭を丸々入れて煮込むのですが、それでは臭みが出てしまうので、鮭を煮込んだ汁と身の一部を一緒に煮込むことで臭みが出ないように工夫したり、栃木県産の臭みのない美味しい鮭ヤシオマスを使っています

酒粕は少なめに、でも酒粕の風味も感じられるちょうど良い塩梅を探して…と、食べやすさを意識して作りました。

味はもちろん、色鮮やかにするなど見た目にもこだわりが ◎(提供:チームメンバーのみなさん)

私も元々しもつかれが苦手だったのですが、『ご飯にかけるしもつかれ』はすごく美味しく食べられます!酒粕が少なめでさっぱりしていて、独特な味や匂い、臭みもほとんどありません。

このままご飯にかけて食べるのはもちろん、温めてもまた違った味が楽しめます。ヤシオマスのおかげで味に深みが出ているので、水気を切ってコロッケにしても美味しいですよ!

私も実際に食べてみました!酒粕が少ないためさっぱりしていて食べやすく、鮭・大豆・野菜の旨みとほんのりと甘味が感じられて、とっても美味しかったです…!♡

本当に美味しくてびっくり…!旨みがぎゅっと詰まっているのにヘルシーで、これは一瓶ペロリだ!ご飯にはもちろん、他のおかずやお酒のおつまみにも合いそうですね。従来のしもつかれのイメージが覆りました(笑)

現代風にアレンジしたりと時代と共に形を変えていくことは、伝統を遺していく上で必要なことなのかもしれないなあ…

「どうしたら味や匂いに抵抗を感じずに美味しく食べてもらえるのか」。何度も試作を重ねて、ようやく完成した商品です。大豆や野菜の食感が感じられるところもこだわりポイントです!

大豆の湯で時間なども変えながら、柔らかすぎず硬すぎず、ちょうど良い塩梅を探しました。新生姜や沢庵など、他の食材を入れて迷走した時期もありましたが…(笑)私たちの中で一番食べやすくて美味しいしもつかれができたかな、と!

苦手な人でも美味しく食べられる『ご飯にかけるしもつかれ』ができるまで

昨年夏から毎週のように試作を重ね、集大成として完成した『ご飯にかけるしもつかれ』。当初は料理ができるメンバーが少なく、鍋を焦がすハプニングもあったそう…!

試作を始めて間もない頃のしもつかれ。端の方が少し焦げています(提供:チームメンバーのみなさん)

最初はこんな色してて。

鮭の皮も入れっぱなしで。

当初から瓶詰めにする話で進んでいたので瓶に詰めたのですが、すぐに腐ってしまって…

もう、食べれたもんじゃなかったよね!

脱走したよね、何回も(笑)色々と調べながら試行錯誤して…。『しもつかれブランド会議』のメンバーの工藤さんに作り方を教わり、だいぶ成長しました。

食欲をそそる鮮やかな色になりました!(提供:チームメンバーのみなさん)

鍋で美味しいしもつかれができても、瓶詰めにすると酒粕の匂いが強くなってしまったり、美味しさが失われてしまって。「もう無理なんじゃないか」「もう辞めようか」という話が出たほど、すごく難しかったです

それでもめげずに試作を重ねます…!(提供:チームメンバーのみなさん)

色々なことを試す中で、鍋で大豆を煮た後に鮭や野菜を混ぜてみることにしたんです。つまり、「はじめに大豆を水煮にしたらどうか」って。

瓶に詰めて高温で温めた時に大豆のアクが出てしまって、それが腐ってしまう要因だったようで。水煮にして初めてそのことに気づき、少し前進しました。煮る時にどのくらい水を入れるかや鮭や野菜を煮る時間などもそれぞれ研究しました。

大豆を水煮にする様子(提供:チームメンバーのみなさん)

形を変えながら、伝統文化を受け継いでいく

こうして試作を重ね、さまざまな方の協力を得ながら『ご飯にかけるしもつかれ』は誕生しました。目標は、出張土産や栃木県に旅行に来た際などに“1000年もの歴史がある郷土料理という話のネタとして購入してもらうこと。そして栃木県はもちろん、全国的にしもつかれが知られるようになること

みなさんは、「県内外問わずしもつかれを知らない人や苦手意識を持っている人に食べてほしい」「酒粕が少ないので子どもでも食べられる。もう一度家庭の食卓に並ぶ文化を作りたい」「そして、しもつかれを後世に遺す側になる人が増えたら嬉しい」と語ります。

私たちはしもつかれという郷土料理はもちろん、「しもつかれの伝統文化も遺したい」と思っています。毎年食べる行事食だからこそ、食べる度に思い出を振り返ることができる。「7軒の家のしもつかれを食べると病気にならない」という言い伝えがありますが、おすそわけを通して地域の人たちと関わる地域文化を守ることにもつながります

苦手な人でも美味しく食べられる『ご飯にかけるしもつかれ』は、長期保存が可能で小ぶりなので、お土産として渡したり近所におすそわけすることも簡単にできます。

“形が変わらないから伝統料理という考え方ではなく、後世に遺し続けていくためには形が少し変わってもいい“現代にあるものを使って遺していく”という考え方がすごく素敵だと思っています。「形を変えてでも遺し続けよう」という意思がないと、しもつかれを遺すことは難しかったのではないでしょうか。

本当に食べやすいよう、時間をかけて頑張って作りました!栃木県民にしもつかれの話を聞いてもあまり良いエピソードが出てこないので、『ご飯にかけるしもつかれ』を食べていただき、しもつかれに抱いているイメージや固定観念が変わったら嬉しいです

駅やお店に『ご飯にかけるしもつかれ』がお土産として並んでいる光景を見て、今まで「お土産にしもつかれなんてあり得ない」と思っていたけれど、「このしもつかれは美味しい」と購入してくださる方がたくさんいます。

もし全国的に広まったらしもつかれ自体の認知度が上がると思うので、まずは多くの方に『ご飯にかけるしもつかれ』の存在を知ってもらえたら嬉しいです

家庭でしもつかれを作る文化がなくなり、存在自体も危うい今、『ご飯にかけるしもつかれ』がお土産として広まれば、しもつかれが遺ると思っています

そしてお土産として広まった結果、誰かが興味を持ってくれて、「これって何なんだろう?」と調べていくうちに、「しもつかれって栃木県の郷土料理で行事食なんだ」「1000年もの歴史があるんだ」「最初は大豆の酢漬けから始まったんだ」と、しもつかれの文化や歴史を知ることにもつながるかもしれない。そんなひとつのきっかけになれたら嬉しいです。

食と地域と作り手の想いがかけ合わさり、長年愛されてきた1000年続く郷土料理『しもつかれ』。その長い文化や歴史に触れる以前に、まずは食べやすくアレンジした『ご飯にかけるしもつかれ』を食べていただき、しもつかれ本来の美味しさを知ってもらうことで、しもつかれという素晴らしい郷土料理やそれにまつわる文化を遺していけるのかもしれません。

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