「ひとりにならない社会」をつくる。不登校支援を行う『NPO法人キーデザイン』
目次
あなたには、悩みを相談できる人はいますか?
人に相談することって、簡単なようで実は難しいことですよね。
昨今の社会情勢の影響により、一人ひとりの余裕が減ってきている現代。私たちと同様に、子どもたちにとっても大人に相談しづらい環境になっているのかもしれません。
そんな悩みを抱えた子どもたちやご家族を支援し居場所づくりを行うのが、『NPO法人キーデザイン』。
「人が生き続けていくためには安心して話ができる誰かが身近にいることが大切」と、代表理事の土橋 優平(どばし ゆうへい)さんは語ります。
NPO法人キーデザインは、『ひとりにならない社会』を目標に掲げ、『フリースクール』『ホームスクール』『お母さんのほけんしつ』の3つのサービスを提供し、年間400家庭以上のサポートにあたっています。
今回、土橋さんの活動に対する想いと覚悟を伺い、ライターの私自身、取材をしながら涙が溢れそうになってしまいました。みなさんにも、この熱い想いがお伝えできれば嬉しいです。
今回お話を伺ったのは…
土橋 優平(どばし ゆうへい)
1993年生まれ、青森県八戸市出身。宇都宮大学進学とともに栃木県に引っ越す。生きづらさを抱える子ども・若者のために活動をしたいと休学し、学生団体を立ち上げ活動。2年間の休学後、中退し、NPO法人キーデザインを設立。現在は、不登校の子ども向けのフリースクールやホームスクールで年間100名以上の子どもと関わり、保護者向けの無料LINE相談窓口「お母さんのほけんしつ」は全国から2,000名を超える登録者がいる。2021年に下野新聞社「とちぎ次世代の力大賞奨励賞」、栃木県経済同友会より「社会貢献活動賞」を受賞。
人と違う道を行く”決断”
土橋さんが『不登校支援』を始めたきっかけについて教えてください。
大学2年生の終盤に休学して、学外活動に注力したのが始まりでした。当時の自分は夢を持って進学したんですが、周囲には「なんとなく大学に来た」という人が多くて、そのような大学生向けに活動していたんです。
今とは異なる活動から始まったんですね!『休学』という決断に躊躇いはありませんでしたか?
正直、周囲との目指すことの違いから大学に行く意味を感じられていませんでした。でも、学外活動では同じような熱量の人たちが沢山いて学びや成長につながる部分が多かったので、休学に関しての躊躇いは無かったです。
私も休学経験があるのですが、休学を両親に話すのは勇気が要りましたよね?
そうですね。休学するためには、やっぱり両親に話さなきゃいけなくて。地元の成人式の時期に帰ったわけです。でも結局、成人式には出ませんでした。そもそもスーツすら持って帰ってなかったんですね(笑)
行く気ないじゃないですか!(笑)
「休学したい」と言いに行くための口実だったんだと思います(笑)でもいざ父に話すと、親子喧嘩になりました。自分は休学した後どうやって生活するかなんて考えてなかったけど、父としてはそれをどんどん問うてくるわけです。
親からしたら大切な子どもの生活がどうなってしまうのか、心配ですよね。親子喧嘩はどうなってしまったんですか?
結局、その日のうちに話はつきませんでした。翌朝、母の車に乗って駐車場から出るタイミングで、父が窓からこっちを見ていたんです。それがなんというか、仏のような顔をしていて。「自由にやれ」と言ってくれてる気がしたんです。
それを見た瞬間、涙が止まらなくなってしまったのを覚えています。分かってもらえた感じというか、親が信じてくれたからこそ頑張ろうと思えたし、そこで改めて覚悟が決まりました。
その後に休学届を出して、当時から関わりのあったとちぎユースサポーターズネットワークの事務所に行きました。代表の岩井さんに「もう休学決めたんですよね」って喋ってるとまたポロポロ涙が出てきて。
その涙は、どんな感情から来るものだったのでしょうか?
やっぱり、怖かったんだと思います。そこで改めて「人とは違う道を行くんだ。もう安定も何もないし、予定調和で行けるものは何もないんだろうな」ということを実感しました。
怖かったけど、自分の中で「どうしてもこれがしたいんだ」という想いが強くあったので負けませんでした。
「死にたい」という言葉と向き合って
学外活動を続けるなかで、同年代の友人から「死にたいんです」という相談を受けるようになりました。相談が終わるとその場では「スッキリしました」と言って帰っていくんですが、次の日になるとまた「死にたい」って連絡が来たりして…。
周囲の大切な人達がバタバタと倒れていくような感覚がありました。
「自分がすべきことは一時的な安心をつくることなのか」と自分に問いかけてやっていく中で、「違うな」と思いました。
大切な人たちから次々に衝撃的な言葉が出てきて、とても辛かったですよね…。どのように「違うな」と思ったのでしょうか。
相談を受けた人の中には、小中学生の頃にいじめの被害を受けたり、周りから理解されなかったという経験を持つ人が多かったんです。若い頃にしんどい経験をした時、安心できる場所があったり、人に助けを求められるようになることの方が大事なんじゃないかと思い、子どもたちを対象とした活動を行うようになりました。
現在の活動に近づいてきましたね!そこでフリースクールを?
いいえ、その段階ではフリースクールという言葉すら知りませんでした。「多様な世代が交わるような居場所をつくりたい」と思って、フリースペースを宇都宮大学の近くにつくりました。その改装工事をしている時にたまたま、不登校の子どものお母さん3人が集まったことがありました。
休憩時間に話していたら、「土橋さんのとこでフリースクールはやらないんですか」って聞かれて。その時初めて『フリースクール』という言葉に出会いました。「やります」とその場で答え、そこからフリースクールが始まりました。
即決ですか…!土橋さんの想いにつながるところがあったんですかね?
子どもたちを対象に活動したいと考えていた時、「不登校でしんどい思いをしてる子どもが大勢いる」と気づき、その子たちの居場所として『フリースクール』がぴったりだと感じたんです。
紆余曲折ありながらも、周りのサポートのおかげで活動を広げていったという土橋さん。時折見せる悲しげな表情に、その課題の重さが伝わってきて胸が痛くなりました。
ここまで強い気持ちを持って活動を続ける土橋さんの力の原点とは、一体何なのでしょう。
非力さから生まれた”悔しさ”。それがエゴだと言われても。
土橋さんは不登校の当事者だったという訳ではない中で、この活動を続けられていますよね。なぜそこまで動き続けられるのでしょうか。
“悔しさ”だと思います。
“悔しさ”、ですか?
まだ生まれてから10年やそこらしか経ってない子たちが「死にたい」と思うこの社会は何なんだ、と。社会に対する怒りと自分の非力さから、ずっと悔しくて。
でも、色々紐解いていくと誰も悪くないんです。大人も立場だったりとか、忙しさだったり、余裕の無さみたいなところもあって…。誰も誰かを傷つけようと思ってやってるわけじゃないんです。
それでも、やっぱり目の前にいる子がめちゃめちゃ苦しんでいるのを見た時の社会に対しての怒りと非力さですかね。
どのようなところに『非力さ』を感じますか?
常に「何かできることがあったんじゃないか」と思っているんです。苦しんでいる子と初めて出会ったとしても、世界はどこかでつながっているので、「自分が過去に何かアクションを起こしていたらこの子は苦しまなかったかもしれない」と思うんです。
すごい…。とても優しいですよね。
結局、非力さからくる悔しさも自分への気持ちなので、エゴと言われてしまえばエゴだなと思います。「子どもたちのためにやっているから」と思うと、子どもへの期待が生まれてしまいます。そうなると、自分が期待した結果にならなかった時に、その子に対して「なんでだよ」と思ってしまう。なので、結局は自分のエゴなんだと理解した上で取り組み、子供たち視点で何が必要かを意識することを大切にしています。
このような土橋さんの想いから、『閉ざしてしまった心の扉。一人ひとり異なるその錠を開けるための鍵の形を一緒にデザインして行く』という意味を込めた、キーデザイン。
目標に掲げる『ひとりにならない社会』について詳しくお聞きしました。
共有できる誰かがいるということ
キーデザインさんは『ひとりにならない社会』を目標に掲げていますが、なぜひとりにならないことが大切なのでしょうか。
誰しも生きていく中で、どこかで必ず「死にたい」と思うほどしんどい時ってあると思うんです。その時に誰かにそれを共有できること、「しんどかったんだね」「大変だったんだね」と言ってくれる人がいることが大切だと思っています。
もちろん解決できたら何よりなんだけれども、解決だけが正解ではないので。人が生き続けていくためには、身近に安心して話をできる誰かがいることが大切だと思います。
『共有できる人がいる』という安心感ですね。
そうですね。一人になってしまったら何もかもネガティブに考えてしまいますし、『誰かと一緒に考えながら進んでいく』ということを私も大切にしています。一緒に人生を歩んでいきたいと思ってますし、親御さんとも一緒に子育てに取り組んでいきたいと思ってます。
不登校自体は問題ではない
ホームページを拝見して「不登校自体が問題ではありません」という言葉が印象的だったのですが、なぜそのように思いますか?
不登校という言葉って『学校に行かない』という事象を示す言葉でしかないんです。そこに「可哀想」とか「親の育て方が悪いんじゃないか」っていうネガティブな印象を持っているのは、周りの大人なんですよね。不登校には何かしらの背景があります。まずは、その背景を理解することが大切だと考えています。大前提、解決は急がず。です。
確かに。無意識にネガティブな印象を持っていたかもしれません…。
学校は勉強ができる場所であり、人とコミュニケーションを取れる場所であり、集団生活の場所でもあります。でも、勉強だったら塾に行けばいいですし、極端な話、今はYoutubeでも勉強できるんです。ある程度勉強ができる子であれば、教科書を読めば理解できます。
集団生活に関しても同様に、フリースクールや学童保育、休日の体験活動などに参加すれば、人との関わり方を学ぶことができます。冷静に考えていくと、学校に行かなくてもその機能は他の場所で補うことができるんです。
学校に通っていない子どももちゃんと大人になれるという事実があるので、そこは私たちが伝えていかなければいけないと思ってます。
わたしたちにできることとは? 500円から生まれる物語
最後に、私たちができる支援方法について教えてください!
主に二つあります。一つは、寄付を月500円から受け付けています。その500円も、ドラッグストアで小袋になってるお菓子を2つ買えるんです。物を買うだけと思われるかもしれませんが、実は色々な物語が生まれます。
へえ…!買い物をすること以外にどんな物語が?
「お菓子買いに行くけどどう?」って言うと、普段手を挙げない子が手を挙げてくれて、交わらなかった子たちと初めて会話が生まれます。また、お店に到着した時には子どもたちが「欲しいものを自分で選ぶ」ことができます。中々自宅ではお菓子を自由に買えない子もいるので、それを選べる楽しさやワクワクが生まれるんですよ。
ワンコインでそんな素敵なことができるんですね!もう一つはどのような支援方法がありますか?
もう一つは、フリースクールの見学も受け付けているので、興味があったらぜひお越しください。子どもたちの様子を見れば、きっと「可哀想」というイメージは無くなると思います。現場に来て、実際に子どもたちの様子を見てほしいです。
不登校支援を行う『NPO法人キーデザイン』。
今回、ライターの私も初めてフリースクールの現場に伺いましたが、ホワイトボードに書かれた自由な落書きなどからも、子どもたちが本当に楽しそうに遊んでいるのが伝わってきました。
また、それを見守るスタッフさんの温かく優しい瞳も印象的でした。
もしフリースクールや不登校支援に興味のある方は、こちらから一度見学に行ってみてはいかがでしょうか。
『NPO法人キーデザイン』団体情報
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